出版ギョーカイ暴れん坊クン著者・編集者から物流、営業、書店員・・・etc.「出版ギョーカイ」の中でもひときわ目立つ「異色な人物」にスポットを当てるインタビュー企画。通して読めば出版の未来像が見えてくる!?

第1回 「ブックサービス」が、出版ギョーカイの抱えるアノ問題を一掃する!?  /更新日:2005年9月27日(火)

今回の暴れん坊クン(( ブックサービス株式会社 代表取締役 伊丹侃氏 ))

「欲しい本がない」・・・よく耳にする言葉だ。これには「そもそも読みたい本がわからない」という意味と「読みたい本がわかっているのに、手に入らない」という二つの問題が隠れている。特に後者においては、お客が書店に本を注文しても届かなかったり、数週間かかったりするのが当たり前となっており、出版流通業界の遅れとして問題視されていた。
その中で、クロネコでおなじみのヤマト運輸が「ブックサービス」という本の配送サービスを立ち上げて早20年。一般のお客向けだけではなく、2005年夏からは、本格的な書店向けの客注対応「おとりよせ@ブックサービス」を開始し、業界内の注目を集めている。
果たしてこれはどんなサービスなのか? 記念すべき「出版ギョーカイ暴れん坊クン」連載第一回として、「自他共に認める暴れん坊クン」である伊丹侃社長にその真意を伺った。

実は書店にとって「注客は2度おいしい」んです

伊丹社長 写真

 

―― 本日は、「出版ギョーカイ暴れん坊クン」というコーナーの取材でして・・・

伊丹 : あー、そうですか。その「暴れん坊」ってのは、会社が暴れん坊なのか、私が暴れん坊なのか、どっちですかね?(笑)

―― いやいや(笑)。今回は、この夏から書店向けに「おとりよせ@ブックサービス」というサービスが始まったと聞きまして。ただ、以前からも書店からの注文を受けるサービスはやっていらっしゃいましたよね。

伊丹 : 「本屋さん直行便」というのは以前から行っていますが、あれは取次の栗田出版販売を経由するサービスです(昨年から太洋社も)。ですので、いままで書店さんは、そちらの取次と口座を開かねばならなかった。ただ、今回の「おとりよせ」サービスでは、私どもは書店さんと直接取引をしますので、口座を開いている取次に関係無く全国の書店さんを相手にすることができるんです。

―― 実際、サービス開始以来、問い合わせやお申し込みされる書店さんが殺到していると聞きました。それだけこの「客注品」向けのサービスが求められていたということでしょうか。

伊丹 : そう、客注で確実にお客さんを捕まえることが出来れば、お客さんは他の書店に浮気をしなくなるんですよ。これは大阪の田村書店というチェーン店の会長さんがおっしゃっていましたけどね、「書店にとって、客注ってのは2度おいしい」って。

―― ・・・どういうことですか?

伊丹 : 例えば、お店にお客さんが来て、欲しい本がなかったら店で一冊注文しますよね。そのとき、たいていの人は手ぶらで帰らず、必ずほかに一冊、雑誌か何かを買ってくわけですよ。で、本が届いたときに連絡すると、またそのお客さんがやってきて、注文した本を受け取って、やっぱり他に何かもう一冊買っていくと。

――― あー、なるほど。たしかに、手ぶらで帰るのは気が引けますものね。

伊丹 : でしょう。「フツーの書店でちゃんと客注やらないところはつぶれるよ」って。でも、一方で客注はコストがかかる、という面もある。もし、取次会社の倉庫に本がなかったら、書店の人は出版社に在庫を問い合わせて注文しなければいけない。だけど、一社ずつ調べてFaxや電話をするのだってけっこう大変じゃないですか。

―― 地方の書店さんだと、文庫一冊の客注のために東京の出版社に電話したら、通話料だけで赤字ですもんね。いきおい、「客注は面倒だからことわる」なんて書店が増えてしまいました。

伊丹 : これが、ブックサービスのお取り寄せ一本だけになれば、発注がラクになる。そして何より、アルバイトの人でもカンタンに客注対応が出来るんですね。ベテランの書店員を使ってあちこちに電話をかけるコストを考えると、ウチを使ったほうがトータルとしては安く済むんですね。

―― それなら入ったばかりの人でも「客注を受けたらブックサービスへ」とだけ覚えればいい。

伊丹 : しかも、「おとりよせ」サービスでは、出版社から商品を引き取った際に、「00書店をご利用いただきありがとうございます。ご注文の商品は9月23日にご用意できる予定です。ご来店をお待ちしています。」というメールを私どもからお客さんに、書店さんに代わって配信するんです。入荷連絡の電話だって馬鹿になりませんからね。同じメールを書店さんにも送りますので、引渡しがスムーズになる。

―― 聞けば聞くほど便利なシステムですね。書店さんからの反応や使い勝手の感想はいかがですか?

伊丹 : もともとこのサービスはある中堅書店チェーンにモニター店となってもらって、いろいろ調査をしながら作っていったんですけどね。我々としては、まだ最初ですし、これで固定化するつもりはないんです。どんどん要望を出してもらって、極端な話、お店ごとにオーダーメイドでサービスを変えていってもいいと思ってますから。

ブックサービスは「取次」とは違うんですよ

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―― 一口に「おとりよせ」といっても、これだけ本がたくさん出ていると本当に多岐にわたる注文が来るんでしょうね。

伊丹 : 以前、ブックサービスの受注履歴を発売年代別にわけて集計してみたんです。そうしたら、10年以上昔に出た本が、全体の15〜20%を占めていたんです。思ったより多いでしょう? 驚いたことに、中には1950年代に発売された本についてもご注文・発送があったんです。

―― 半世紀近く前の本を注文するお客さんもすごいけど、在庫を持ってた出版社もすごいですね。通常の新刊書店を探し回るだけでは、絶対に見つけられないでしょう。

伊丹 : そもそもね、他の取次会社が「こんなの売れないよ」って返品した本でも、私どもは出版社から取り寄せますよ、というサービスなんですから。・・・それとこれは、本当はあんまり書いてほしくないんですけどね。

―― な、なんでしょう?

伊丹 : 以前試しに、ウチがお客さんから受けた注文データを、ある大手取次会社の倉庫の在庫データへ照会してみたんです。最初、その取次会社の方は「95%はヒットしますよ」と自信満々に言ってたんですけど、実際に当ててみると・・・「なんだ、こんなもんか」って。

―― なるほど、それだけ在庫がないような古い本の注文を数多く受けてるんですね。

伊丹 : 某中堅取次会社のデータにも当ててみようと思ったら、そこの人に言われちゃった。「伊丹さん、やらなくてもわかりますよ、ウチの在庫じゃ1割も当たりませんよ」って(笑)。

――  以前、業界紙などで、伊丹社長が「ブックサービスは客注専門取次を目指す」とおっしゃっていたのを何度も目にしました。となると、これは本格的にブックサービスが取次業として動き始めた、と思ってもいいんでしょうか?

伊丹 : 以前わたしは、その「客注専門取次」って言葉をよく使ってたんですが、この言葉をやめて「おとりよせ」と言い換えるようにしたんです。我々と取次会社さんとでは、そもそもビジネスの形が違う、ということをもっとアピールしよう、と。

―― どういうことですか?

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伊丹 : 簡単に言えば、取次会社というのは自社に在庫を持って、それを書店さんに売るのが商売ですよね。当然、今の委託販売のシステムの中では返品も生じる。いま、返品率を仮に30%くらいだとしましょうか。そうすると、出版社にしてみれば、取次会社に6割とか7割とかの掛け率で本を卸したとしても、結果として3割返ってくるんだから、実際は半分以下の実入りしかないんですよね。

―― たしかに。出版業界はメーカー側のマージンが高く流通側の取り分が少ない、と言われていますが、返品を考えるとこういう数字になってきます。

伊丹 : でも、我々は在庫を持たない。一件一冊でも注文を受けてからはじめて、出版社に取りにいく。結果、我々の返品率というのは1%を切って0.6%前後ですよ。これは非常に大きい。

―― これはクロネコヤマトの物流網を持ってなければできないシステムですよね。

伊丹 : だから、我々は書店さんとの直接取引だけではなく、出版社とも、取次を通さず直接取引をしたい、という話を現在進めてるんです。大手の出版社でも、幾つか直取引になったところが出てきましたけど、なにせ出版業界というのはどんなことでも、変革を迫られると対応が遅いよね・・・。なんでも「総論は賛成、各論は横並び動かず」って感じで(笑)。

―― え、でもそれじゃ、今まで間に入っていた栗田さんの立場は・・・!?

伊丹 : 栗田さんはウチの株主ですので亀川社長からも頑張れと励ましをいただいています。そもそも、先々代の社長が20年前に「書店のない遠隔地のお客さんにも、一冊から本を届けよう」ということでブックサービスを創業したときには、もともと取次を通さない直接取引を想定したビジネスモデルだったんですよ。しかし、「ヤマト運輸が取次進出の先鞭を!」って騒がれすぎちゃって(笑)。

―― 「黒船襲来」みたいになっちゃったんですか(笑)。

伊丹 : そのときに「じゃあ資本参加してお手伝いしましょう」ってなったのが栗田さんだったんですね。で、サービスを進めていくうちに書店組合などから「客注用に使えませんか」というお問い合わせを受けて、だんだん現在の形になってきたわけです。ただ、これでお互い直取引になってマージンが下がれば、書店は客注を積極的に取るようになりますよ。長い目で見たら、どちらのほうが売り上げが上がりますかね?

「出版社と読者の間に入る」ことなら何でもします

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―― 話を聞いていると、ブックサービスというのは業態が非常に幅広く感じます。ライバルとなるのはamazonのようなオンライン書店だと思う人もいるかと思うんですが。

伊丹 : いやー、ウチは自分たちがネット書店だなんて思ってないですよ。今でも電話やFaxでの注文が全体の4割はありますし。そもそもウチにはネット書店の店長と言うか、専従者がいないんですから。

―― いないんですか? その割には、ネットでの注文受付を開始したのは、かなり早かったですけど。

伊丹 : 紀伊國屋書店さんとほぼ同じ93年には、確かにネットでの注文を受け付け始めましたけど、実はあれも担当者が一人だけで作ってて。使い勝手も悪かったもんだから、私がコンピュータ会社に勤めている友人に頼んで「ちょっと使ってみてダメなところを教えてくれ」とたのんで、レポートをもらっては修正して、って最初やってたんですよ。amazonさんの動向も気にしてないわけじゃないけど、気づくと追い抜かれてたなあ、という程度で、特に何の影響もなかったですよ。

―― 他にも、バーゲンブックやレンタルコミックの流通を担ったり、幅広く活躍していらっしゃいますね。

伊丹 : レンタルコミックは、最初どこの取次会社も手を挙げなかったのでウチに話がきたんですよ。でも、我々がやるとなったら、他から「じゃあウチも」みたいな話があって(笑)。とにかく私どもブックサービスは、私の名刺にも書いてありますとおり、「版元と読者の間に入る」ことで問題解決できることならば、なんでもお手伝いしますよ。

―― そうやって、本を世に広める機会を増やしたいと。

伊丹 : 逆にいうと、この業界が抱えている機会損失という問題は非常に大きいんです。例えばよく、売れ筋商品を出版社に注文すると『品切れです。でもまだ注文が少ないんで、重版できません』って注文自体を断られることが非常に多いじゃないですか。あれの機会ロスって相当なものですよ。業界全体で言ったら何百万冊ですかね?

―― たしかに。それが「読みたい本が手に入らない」最大の原因となっていますね。

伊丹 : それが例えば、オンデマンド印刷機で1冊から刷ってお客さんに渡せるというならどうですか? 印刷費用は多少割高になるとしても、今まで捨ててた注文が生きてくるわけですよ。うちはそういう流通もお手伝いしたいと思ってるんですが。

―― そんなことができるんですか?

伊丹 : いまそういう印刷機を開発しているところは2社ほどありますけど、ソフトカバーの本なら素人目ではほぼ通常印刷と同じように再現できますね。そうすると例えば、品薄期間はオンデマンド印刷本で。お客さんには「現在品切れですが、多少の割り増し料金でよければすぐ手に入ります」ってそっちを売っちゃう。で、注文部数が増えてきたら通常の増刷をかければいいんです。

―― なるほど・・・。ところで、伊丹社長は今後、書店はどう変わっていくと思いますか?

伊丹 : 一口に書店と言っても、その将来像はさまざまだと思いますよ、新刊だけを売る書店なのか、古書やバーゲンブックを扱うのか、それともレンタルコミックをやりたいのか、CDやDVDとあわせた複合店なのか・・・。我々ブックサービスとしては、今後はそういう書店さんの幅広い要望にすべて応えられる体制を作っていきたいですね。例えば、園芸の本があったら隣に花の種を置きたいとか、釣りの本の隣に釣竿を置いてみたいとか、そういうのでもいい。

―― すでに、本じゃなくなってますけど!!

伊丹 : 本の販促としてとらえれば良いのでは。そして書店として収益が上がれば良いのではないですかね。例えば「どこそこの釣り道具を5セット欲しい」といわれたら、ヤマトのドライバーに頼んで、あちらの工場にちょっと明日集荷に行ってきてくれと。これがね、在庫を抱えて売ろうと思ったら大変ですよ。まず、バイヤーが必要になってくる。幅広いニーズに応えきれるわけがないんです。ウチの場合は、お客さんが何を望んでいるかさえ教えてくれれば、ヤマトの総力をあげて、何でもやりますから。

伊丹社長の話は淀みがない。すらすら出てくる言葉からは「お客が欲しいものを届けたい」という一貫した姿勢が垣間見えた。そこにはギョーカイの慣習など関係ない。書店のため、読者のために精一杯のサービスができるよう、自ら仕組みを作る・・・。横並び体質で改革が進まない出版業界の中において、すでにブックサービスと伊丹社長は、「暴れん坊クン」という枠を超え、出版業界再生の偉大なる立役者となっているのだ。(取材・文/梶原治樹)

■ブックサービス  http://www.bookservice.jp