出版ギョーカイ暴れん坊クン著者・編集者から物流、営業、書店員・・・etc.「出版ギョーカイ」の中でもひときわ目立つ「異色な人物」にスポットを当てるインタビュー企画。通して読めば出版の未来像が見えてくる!?

第2回 「アパレルショップの中に本屋を作った男」が目指す「本と人との出会い」とは?/更新日:2005年11月9日(水)

今回の暴れん坊クン(( 第2回 ブックピックオーケストラ 主宰 内沼晋太郎氏 ))


今年10月、若者・ファッションの中心街である原宿に、一風変わったアパレルショップ「TOKYO HIPSTERS CLUB」がオープンした。店内は50年代〜70年代米国カルチャーをコンセプトにしたファッション、音楽、アートで埋め尽くされており、さらには、壁面一面に大きな本棚がある。なんとそこに並ぶのは、古い写真集、文芸書、さらにはキューバ革命の本までおよそ1000点。
この本棚の選書を手がけたのが、ネットの古書販売からアートな活動までを幅広く手がける若干25歳の内沼晋太郎氏。この風変わりな書店を立ち上げたいきさつについて聞いてみた。
(取材日:2005年10月)

ゲバラのTシャツを着るのなら、その背景も知っててもらいたいと

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▲洋服と一緒に本も陳列されている

――アパレルのお店の中に本を置いて一緒に売ってしまう、というのは非常に珍しいと思うんですが、このきっかけは?

内沼 : 2004年末くらいに、こちらのお店の運営をしているワールドさんのほうから、声をかけていただきました。このTOKYO HIPSTERS CLUBというお店は、単に洋服を売るだけでなく、1950年代〜70年代のカウンターカルチャー、アートや音楽も含めた新しい「場」を作り上げる、というコンセプトで立ち上がったお店ですので、その中で書籍の部分をぼくが手がけている、ということです。

――といっても、内沼さんご自身は1980年生まれと非常にお若いですよね。選書などはどうやって?

内沼 : まずはリスト作りですけど、もうこれは一冊ずつ地道に。あちこちの書店へ行ったりGoogleやらamazonやら取次のデータベースやらでとにかくキーワードを入れて検索したり。そうやって知った本の関連書籍を調べ、またそこから検索していく。その繰り返しで結局、1500冊くらいになりましたね。ここから本を仕入れていくのも大変な作業なんですけど、新品でないものは古本で足で探して、という形で集めました。とはいえもともと好きなジャンルだったので、苦ではありませんでしたけど。

――「ファッションと本」というのが、もちろん文化という意味では密接につながりがあるんでしょうけど、やっぱり門外漢としてはぴんとこない部分もあるんですが。

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内沼 : 今って、平べったくなっている時代、といえばいいんですかね。服でもカフェでも個性的であろうとすることが当たり前になって、逆にその個性が目立ちにくい。いくら「ウチはホンモノです」と訴えても、埋もれてしまうじゃないですか。そんな中で、「ホンモノ」を示すために、本というのが求められはじめていると思うんです。たとえば、「コカ・コーラ」のTシャツって、もともと最初にアメリカで出てきたときは、“アンチ”コカ・コーラの意味で着られてたそうなんですよ。

――あ、そうだったんですか? 好きな人が着てたんじゃなくて?

内沼 : そう、皮肉の意味で着るものだったんです。でもいつのまにか日本では、なんとなくデザインが好きだったりする人が、普通に着るものになっていった。数年前にチェ・ゲバラがアイコンとして流行したことがあったんですがそれも同じで、ゲバラが何をしたどういう人なのかということはあまり知らないまま「単に顔がかっこいいから」着てるって人が多かったと思うんです。けれど最初にゲバラをモチーフにデザインした人やそれを着始めた人たちはそうではなくて、それぞれにゲバラに対する思いがあったわけですよね。でもそのことを、声高に宣言してもかっこ悪いし、何より説得力がない。そういう場所に、本を並べることはとても有効なんだと思います。

――音楽だってそうですよね。パンク好きな人がみんな反体制な思想を持ってるわけじゃない。

内沼 : ええ、だったら本でその背景を伝えようと。本棚を見ればウチの考え方がわかるんだと。そういうのが、チェーン店化、大量消費社会の中で求められていることなんじゃないかと思うんですよ。

――まだオープンして間もないわけですが、お客さんの反応はいかがですか?

内沼 : 面白いなぁと思ったのは、普通の本屋では売れない高価な本が売れていくんですよ。先日も8000円くらいする写真集と、3000円くらいのグリーンバーグの批評集をぽーんと買っていくお客さんがいたんですが、そういう買われ方が普通の本屋より多い回りに置いてある服が3万円とか5万円とかするんで、安く見えるってのもあるんでしょうね。

――たしかに、書店で見たら、いくら欲しくても躊躇しちゃうかもしれない。

内沼 : でしょうね。やっぱり、本って安いんですよ。安すぎるくらいですよね。

カフェとかアパレルとかで「ちょっとだけ本を扱いたい」人は多いと思います

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――異業種とのコラボレート、という点で苦労したことはありますか?

内沼 : ここのお店の母体がワールドという企業ですから、新刊に関しては日販と取引をしています。もし個人経営のカフェで本を集めようと思ったら、古本に頼らざるを得ないでしょうね。ただ、アパレルの世界と本の世界ではやっぱり商習慣が違うので、そこを理解してもらうには時間がかかりました。

――例えば?

内沼 : 例えば返品の考え方ですよね。アパレルの場合は、ごく一部の不良品などをのぞくと、メーカーに返品することはほとんどないですよね。でも本というのは日常的に納品と返品があって、毎月その差額を精算して、というのが当たり前じゃないですか。また、服の場合は発注は基本的に季節ごとのもので、夏物は夏のうちに売り切るものですから、売れるたびにこまめに追加するような習慣はありませんが、本の場合はあとで返品することもできるから、一冊売れたら一冊追加して、なるべく不足のない棚にするというのが基本的な発想ですよね。そういう感覚の違いがあるから、なかなか普通の書店のように毎日注文して返品して、という流れが馴染みにくいわけです。

――そうは言っても、新刊が次々出てくるから、置くべき本も変わってきますしね。

内沼 : もちろん、ここはフツーの新刊書店とは違いますから、一切返品をしないで本当に置きたい本は在庫としてずっと抱えておいて・・・ということもできると思いますけど。今後どうしていくかは課題ですね。

――なるほど。

内沼 : あとは発注の精度でしょうね。服の場合、商品を10個注文したら当然10個入ってくる。しかも一つの箱に入って指定した日に届いて、タグもついていて、あとはただ並べるだけ、みたいなのが当たり前なので。本の世界は頼んだとおりに入ってこない、いつ来るかもわからない、だからとりあえず多めに注文しとけ、というのとかがあるじゃないですか。これはやっぱり他から見るとおかしいかもしれませんね。

――でも、これで成功を収めたら、他のお店でも違ったテーマで本を選んだりとかできそうですね。

内沼 : ファッション業界もそうだし、カフェを経営してる人だってそうだと思うし。出版業界以外のいろんなところで、「ちょっとだけ本を扱いたい」って人が多いと思うんですよ。だけどそれは、流通の関係で難しい。古書なら始められるかもしれないけど、品揃えも難しいですしね。だからぼくみたいなのが、そういう細かいニーズを拾っていければいいなと思います。

――いま、書店のほうは大型店化が進んでいます。それはある意味で「書籍の専門店化」ですよね。内沼さんのおっしゃる方向性とは反対なんですが。

内沼 : もちろん本の業界でも、商品のセレクトで若い人をひきつけようとしているところはたくさんあるんですよ。カウブックスとかユトレヒトとか、いわゆる感度の高い若者に対して、本屋という形で本の面白さを伝えていこうという店はある。だけど、そこに引っかかっていかない人もいっぱいいるんですよね。

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――本屋さんで本の魅力を訴えても、そもそも本屋に行かない人が多いから。

内沼 : コーヒーだって、昔だったら「喫茶店」しかなかったものが、今ではカフェから自動販売機の缶コーヒーまで、いろんな形で進出してきてますよね。「コーヒー専門店」がある一方で、そうやって出会いの場も増えてきている。ところが取次の人たちが「本を読まない若者のために、カフェにも本を置いてみよう」って考えてるとは思えないんですけど。

――じゃあ、こちらの次にも、何かプロデュースをしたいと?

内沼 : ええ、そういうリクエストがありましたら、ぜひ他にもやってみたいですね。ここ、ちゃんと書いといてください(笑)。

「本を見せない」ほうが、かえって「本に出会える」ものです

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――内沼さんの仕事というのは、多岐にわたっているそうですが・・・。

内沼 : 「何をしているか」と聞かれると非常に困るんですが・・・、インターネット関係の仕事をしたり、ライターをしたり、千駄木の往来堂書店でまだバイトもしていますし。中心となっているのが、ネットの古本屋をやっている「ブックピックオーケストラ」というユニットでして、現在20人くらいのグループになっています。

――みなさん、他に仕事をしながらやっているんですか?

内沼 : そうですね、学生だったり社会人だったりしていますけど。ネットの古本屋というのは、すでに北尾トロさんとかも本を出したりしてたので、我々は最後発、という意識で始めたんです。そもそも、ネット古書店というのは、一人でやるには採算が取れるでしょうけど、それ以上儲けるには無理なビジネスモデルというか、規模と比例して手間ばかりが増えて面白くなくなってしまうと思うんですよ。なので、あくまでもブックピックは、古本を売って儲けようというよりは、そこで色々採算ベースではやれない、面白いことをやって目立って、その結果それぞれが個人の別の活動に結び付けていこう、という考え方で運営しています。

――その中では、今行っている期間限定書店「encounter」というのが、非常に面白い試みですね。置いてある本がすべて袋に入ってお客さんには何の本かわからないようになっているとか?

内沼 : もともとは横浜のBankARTという美術館で、作品として発表した企画です。お客さんはどれか袋の中に入った一冊を手に取って開けてみて、気に入ったら買って帰ってもいいですし、そうじゃなかったら、その本にはさんだ紙にメッセージを残してそのまま棚に戻す、というルールになっています。なので、棚にはまだ誰にも見られていない袋に入った本と、すでに誰かの手に取られて感想が書き込まれた本がバラバラに並んでいるわけです。

――「お店」ってことは、家賃や人件費などもかかるんですよね?

内沼 : はい。ただ、来年の秋には出なければいけない特殊な物件でして、家賃を払っているといっても非常に微々たるものです。店番も交代で、ボランティアでお願いしていますし。ただ、夏にオープンしてから、たしかに反響は大きいんですけど、いわゆるマスコミの取材は多いんですが・・・。

――一般のお客さんは少ないんですか?

内沼 : ええ。でもそれを言ったら、大阪のカロっていう書店の石川さんって店長の方が「内沼君、めげることないよ。変わった本屋をやると最初はみんなそんなもんだよ」って慰めてくれて(笑)

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――それにしても、本屋をやるのに「本を見せない」ってのは斬新ですね。

内沼 : 本を読む人にとっては、「読んだら面白いのかもしれないけど、手に取らない」本というのが多いじゃないですか。一方で、本を読まない人にとっては、表紙やオビで何をアピールしようが、読まないものは読まないんですよ。「本を見せない」という意味では、この企画のずっと前に考えた「文庫本葉書」というのが最初のアイディアです。。文庫本が中に入っていて裏側がハガキになっているんですが、中の本の著者や書名はわからないようにしてあって、裏側に本の一節だけが引用されているんですね。全て500円で、見比べて気に入ったもの探すんです。そうすると、今までは読んだことがなかった著者であっても、一節に引かれてつい手に取ってしまうんですよ。これは、今もいくつかのショップで販売してもらっていますし、イベント出張の際もよく持っていきます。

――食わず嫌いの著者ってけっこういますからね。

内沼 : 本屋さんに行くと、情報が多すぎるんですよ。著者名、書名、出版社名・・・どの本の表紙にもオビにもいろんなことが書いてあって、あちこちに「100万人が泣いた!」なんて。これじゃかえって選びようがないと思うんですよ。「若者の本離れ」って話があるんですけど、この言い方って若い人だけのせいに見えません? そうじゃなくって、いま若い人にとっては「本の面白さが伝わりにくい」環境なんだ、と考えてみたらどうでしょう。大きい本屋さんに言っても途方に暮れるだけだし、小さい本屋にはそもそも本がないし。

――たしかに、あれこれメッセージを伝えようとしすぎて消化不良になってるのかもしれない。

内沼 : 実は今度、ウチの在庫で処分したい本を集めて、「発行年だけしかわからない本」フェアってのをやってみようと思ってるんです。よく、古本屋に行くと入り口のワゴンでまとめて100円みたいなセールをやってるでしょう? あれじゃ面白くないので、一冊一冊袋に入れて見えなくして、表に「1980」とか年号だけ入れて、年号順にざーっと並べてみたら、ちょっと洒落で買ってみようかなって思いません?

――生まれた年で買ってみたりとか。

内沼 : そうそう、「やっぱり1968年だろう!」とか言ってみたり(笑)。

――ところで今後、何か手をつけてみたいジャンルというのはあるんですか?

内沼 : そうですねー、これはまだ自分でやるかどうかはわからないんですが、美術館の目録の流通をなんとかしたいと思ってるんですね。最近は意欲ある美術館が出版社と共同制作して一般書店でも流通して、というケースも少しずつ増えてきましたが、特に公共の美術館の場合、まだ大体は予算を組む時点で「一般に卸して売る」という考え方がないんですね。そうなると、本屋に卸したくても公共の予算として最初に収支を組んでしまっているから、卸値で出すことができない、だけど美術展は終わってしまって、在庫はたんまりあるんだけど、みたいなことがある。

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――そりゃもったいない。

内沼 : そう、美術カタログって安いし中身も濃いし、非常にもったいないと思うんですよ。じゃあ全部のカタログに出版社を絡めて・・・といっても、書店流通が大前提にあると、やっぱり単価が高くなってしまうんですかね。それで「一緒に何とかしようよ、内沼クン」ってある美術館の人から言われてて(笑)。もうこれは、小さな専門取次でも作るしかないのかなーとは思ってますけどね。

――だんだん話が大きくなってきましたね。その調子で出版ギョーカイの暴れん坊になっていただいて(笑)

内沼 : いやいや、いくらボクが暴れたところで、出版業界が変わるとは思えませんよ(笑)。一人で巨大取次に対抗しようとしても無駄ですから、あくまで草の根的に、本の業界の隙間を埋めていければいいんです。とりあえず今は「面白い本を出す」ことや「面白い本を売る」ことより、そもそも「本は面白いんだ」と伝えていくことをやっていきたいと思いますね。

「いい本なのに、読者とめぐり合えてないなぁ」と思うことが多い。どんな本にだって、それを喜ぶ読者が必ずある一定数はいるはずだ。しかし、本の洪水に飲み込まれ、出会うことなく消えていく本が多い。これは読者にとっても、その本にとっても不幸なことだ。
「本と人との出会い」の演出・・・内沼氏の活動はすべてこの一点にかかってくる。それは小さいながらも着実に、そして印象的に効果を表している。
では改めて、ここを読んでいるだろう数多くの出版ギョーカイの方々に問おう。「あなたのその仕事は、本当に本と人とを出会わせているのか?」(取材・文/梶原治樹)

■TOKYOHIPSTARS http://www.tokyohipstersclub.com/