出版ギョーカイ暴れん坊クン著者・編集者から物流、営業、書店員・・・etc.「出版ギョーカイ」の中でもひときわ目立つ「異色な人物」にスポットを当てるインタビュー企画。通して読めば出版の未来像が見えてくる!?

第5回 「ちょいワル」編集長が次に仕掛ける雑誌とWebの複合型メディア「zino」はどこへ行く?

今回の暴れん坊クン (株)KI&Company 岸田一郎氏


「ちょいワル」などの言葉を生み出した雑誌『LEON』。その創刊編集長・岸田一郎をテレビなどで知った者も多いだろう。その彼が06年秋に新出版社(株)KI&Companyを設立し、新たな高級誌クオリティ・ライフスタイル誌『zino(ジーノ)』をいよいよ3月24日に創刊する。この紙媒体とウェブサイトを融合した新しいサービスは、不況の出版業界でまたしても台風の目となるか?創刊準備で忙しい中、岸田社長にインタビューを行った。

「脱・ただのお金持ち」!『zino』が読者の消費の仕方を変えていきたいですね

――まずは、新媒体『zino』を立ち上げるきっかけからおうかがいしたいのですが。

岸田 : 『LEON』がおかげさまで成功を収め、創刊5年目を迎えたところで、次にどんな雑誌を、という話になるんですが、もう、相対評価ということで言うと、従来型の雑誌という紙オンリーの媒体では機能がそろそろ限界に来ているような気がしたんですよ。テレビやラジオに加えてインターネットもあるいま、雑誌単独で情報発信していくだけじゃなくて、話題のネットを使うことで、読者に対してサービスを提供していくことも重要だろうと思ったんです。

――『LEON』の中でWebマガジンを作らず、独立をしてあえて新ブランドとした理由は?

岸田 : 最初はそう考えていたのですが、私がいた主婦と生活社というのはどちらかといえば古いタイプの出版社でして。『LEON』を立ち上げのときにも「たかだか5万部程度の本に億単位の広告なんか入るのか?」って疑問視されて、社内の協力を得られるまでに相当の時間がかかったりしました。そんななかでWebマガジンを立ち上げたいなどといっても、なかなか理解を得られなかった。それなら自分自身の手で、ということで今のKI&Companyを立ち上げることにしたんです。

――『LEON』では「ちょいワル」というフレーズが有名になりましたが、『zino』ではどんなコンセプトを?

岸田 : 『zino』では「脱・ただのお金持ち」をテーマとして打ち出していこうと思っています。お金持ちになると、とかく「一番高いやつをくれ」ってなりがちなんですけど、それって往々にして野暮ったく見えたりするんですよ。センスで光って、モテるお金持ちになりましょうと。そのためのモノやテクニックを指南していこうと思っています。

――たしかに、テレビで見るお金持ちの家はなんでも金ぴかな印象があって、なかばギャグの対象にされていることすらありますよね。

岸田 : ラグジュアリー商品の消費に関して、正解なんてのはないわけですね。たとえば車にしても、誰もが知ってる高級ブランドのクルマばかりにみんなが偏ってしまっては面白くない。だけど、『zino』では、あえてラテンな別の車でハズシたほうがカッコイイですよ、と問いかける。提案したもののほうが、機能としては劣っている場合もありますけど、ブランドってのはそういうものですから。

――『LEON』が年収1500万円前後をターゲットにしていたのに対し、『zino』では年収2000万円以上の30代〜50代の購買力・購買意欲に満ち溢れた方々がターゲットになるそうですが、これによって、扱うアイテムに違いは出てくるのですか?

岸田 : 今までと違うのは、不動産やインテリアなども取り上げる点ですね。あとは美容や健康も扱うテーマになってきます。「健康はオカネで買える」みたいな企画を打ち出していきます。ファッションやクルマ、時計といったアイテムも、もちろん主軸となりますが、こちらは扱うアイテムの幅を広げていくことになります。

――私自身まったく交流がないのでわからないんですが、そういったターゲットの方々というのは、庶民と消費に対する考えかたがどのように違っていると思いますか?

岸田 : いや、「どう違っているか」は大事じゃなくて、我々がこれから彼らの消費動向をどう変えていくか、なんですよ。昔の話になりますが、『BEGIN』という雑誌を作ったときに時計のブームを「作った」んです。時計なんて何個もいらないし、そもそも携帯電話で時間がわかるものだから、別になけりゃないでもかまわない。そんな中で我々がやった一つの例が、「キミは“吊り革バトル”に勝てるか?」という企画です。

――電車で吊り革につかまったときに、ちらりと見える時計が何かで、男の勝ち負けが決まるんだという…今でも語り草になっている企画ですね。

岸田 : そうやって土俵をあれこれ作りながら、「時計が自己実現のアイテムである」ということをわれわれが表明していったんです。それと同じように、『zino』でもいろんなブームを作りながら、自己表現のアイテムを提案していくということになります。

『@zino』のほうで、読者との双方向なやりとりをしてきたいと思っています

――先にWeb『@zino』のほうが先行してスタートしていますが、周囲の反応はいかがですか? 

岸田 : 1月末現在、会員数は2500人を突破し引き続き堅調に推移しております。絶対数以上に、経済力と購買意欲に満ち溢れた人たちに集まってきていただいてると感じています。すでに『@zino』で紹介された何百万円もする高額商品が売れたという話も聞いており、メーカーさんからも喜ばれていますね。また、すでにタイアップや出広のお話をいただいており、非常に反応が大きいです。

――いままで、高級ブランドがWebに広告を出すケースはほとんどなかったと聞いていますが。

岸田 : 欧米ではWebにおいても購買力、購買意識に満ち溢れた方々向けのクラスメディアがしっかり確立しています。ですから、ラグジュアリーブランドもWebにちゃんと出広している。日本にはそういった媒体がまだないために、立ち遅れているんです。われわれはそれを作ろうとしているんです。ただ単に高級なブランド品を並べただけじゃない。読者をわくわくさせる、面白いコンテンツを作っていきたいと思っています。

――雑誌版の『zino』とWeb版の『@zino』では、編集部が異なるんですか?

岸田 : いえ、取材に関してはすべて編集部がやっています。そこからWebに落とすために、Web事業部という別のチームが担当しています。

――初めてWebの世界に入ってみて雑誌づくりの世界と違うと思ったことはありますか?

岸田 : まず断っておきますが、大原則は変わりません。雑誌だろうがWebだろうが、何より大事なのは売れるコンテンツを作ることです。雑誌の人たちが「これからはクロスメディアだ」とかいって、Webを作っても、もともとのコンテンツがしっかりしてなくて売れてないなら、意味がないんです。

――たしかにそうですね。

岸田 : メディアの特性ということでいうと、雑誌には一覧性があって、一度に多くの情報を見てもらえるという特徴があります。対してWebでは、一度にぱらぱら見せるのが難しい代わりに、奥深く情報をストックすることができるのが大きな違いですね。たとえば、メガネという特集をやったとしましょう。いわゆるファッション誌において、メガネというアイテムの序列はせいぜい5位以下なんです。やっぱりファッションが一番、次にクルマが来て時計がきてと、読者の関心が大きい順にページを割り振っていかざるをえないんです。

――電車の中吊り広告に一番大きな見出しで「この秋のメガネはこれだ!」とか、そういうことにはなりませんよね(笑)

岸田 : でもWebの場合では、メガネのページをより深く、大量に作れますよね。「俺はメガネが好きだ、ちょうどメガネを探そうと思ってた」って読者が目次を見てメガネのページをクリックしてくれると、ストックされた情報をいくらでも読者に提供することができる。読者の素直なニーズにこたえられるというのが大きいですね。さらには、雑誌と違って情報をずっと置いておくこともできますし。

――そうですね、バックナンバーの記事と最新の記事を組み合わせて同時に並べることだってできますものね。ほかに、Webならではのサービスにはどのようなものを考えていらっしゃいますか?

岸田 : 読者が商品を購入するための「ご案内機能」というものを考えています。いままでにも雑誌を作っていたときに、クライアントと組んである商品を誌面で買える、ということをやったことがあるんですが、なにしろ時間がかかるんですよ。ハガキか何かで購入を受け付けるんですが、募集を締め切って場合によっては抽選し、当選者に連絡してお金を振り込んでもらい…なんてやってると、読者に商品を届けるのに2ヶ月くらいかかかってしまう。「ほしかったカシミヤのセーターなのに、到着したら春になっちゃった」ってなりかねない(笑)。

――たしかにインターネット通販全盛の今では、遅すぎますね。

岸田 : 『zino』の場合は、お申し込みは『@zino』で、といえば読者はすぐに申し込みができ、われわれはすぐにレスポンスできる。そういうのもやっていきたい。

――紙の雑誌は当然有料なわけですが、Web版のほうはすべて無料なんですよね?

岸田 : 会員登録をすると見られるページと、非会員でも見られるページがありますが、どちらも無料です。今後は会員専用の情報を拡充していくと同時に、実は、会員ページと非会員ページではサーバが異なっていて、会員ページのほうが快適に動作するようにしているんですよ。コンテンツだけでなく、そういった部分でも差をつけているんです。

――性能面でも差があるというのは面白いですね。さらに、会員に対して新製品の情報を配信したりもできるようになるんですね。

岸田 : そうですね。今まで雑誌だけのときでも掲載した商品が完売してクライアントからお礼を言われることが多々ありました。でも、購入した人がどんな人か、われわれにはさっぱりわかりません。でもWebの場合は会員化していきますから、読者の属性や嗜好がわかっています。時計好きの読者の方に時計の情報を配信し、といったことなど、われわれと読者との双方向でいろいろなことができると期待しております。

――これだけ『@zino』の情報や機能が充実してくると、こちらだけでも十分だと思う人が増えるかもしれませんね。

岸田 : いま、われわれがターゲットとしている読者の方々には、やはりある程度のお歳を召されたかたが多いでしょうから、それほどインターネットに馴染んでないと思うんです。だけど、もしもっと面白くて実用的な情報が『@zino』で出てます、というと、じゃあそっちも見てみようかと思うでしょう。その結果としてWebだけでいい、雑誌の『zino』はいらないと思われる日が、いつか来るかもしれないですね。自分たちが率先してそうしたいわけではないですよ。だけど、もしそうなってしまったときでも、われわれのビジネスはやっていける、そういう構造にしているんです。

――なるほど。

読者は「紙かWebか」なんて関係ない。あくまで「コンテンツ」を見ているんです

――いま、岸田さんの目から見て、雑誌という業界はどうなっていると思いますか。

岸田 : 自著にも書きましたけど、ファッション雑誌に関して言えば業界全体が記者クラブ化していると感じます。たとえばヴィトンでもグッチでも、ブランドのほうが発表会やファッションショーを主催し、そこに行けばプレスリリースの束を用意してくれて、この辺が狙い目、という流行も決まっていて、貸し出し品も揃っている。

――いたれりつくせり、ですね。

岸田 : そうなると出版社の人間は、それを右から左に流すだけなんですよ。人気のあるカメラマンとスタイリストとライターにわたして、よろしくお願いしますって。そうして挙がってきたコンテンツに、エレガントだフェミニンだって見出しをつけるだけ。その結果何が起こるかというと、各雑誌が同じようなものになってしまうんですよ。そのシステムの中に安住しちゃっているんですよね。官僚化していると言ってもよい。

――著書の中では、評論家や著名人の監修を使うことに対する批判もされていらっしゃいました。

岸田 : 評論家や著名人ご自身が悪いわけではないですけど、皆さんほかでも一貫して同じことを主張されるわけですから、メディアの側からしたらオリジナルなコンテンツが作りづらいんです。でも、ブランドの消費に正解はありません。われわれはもっと単純に、『zino』という旗をあげて、何人の人が集まってくれるか、という作り方をしていく。権威はわれにあり、という形で作っていかないとオリジナルなものは作れないと思っています。

――でも一方で、雑誌の中には、編集長の個性が振るわれすぎて失敗してしまう例もあります。

岸田 : そうですね、先に挙げた「オリジナリティがない」というのと同時に問題として挙げられるのが、「ビジネスを考えてない」ということだと思います。「俺の世界はこうだ」と自分の考え方やセンスを最大限反映して、それで売れたらラッキー、売れなかったら「時代がついてこなかった」って、ビジネスでも何でもないですよ。

――手厳しいですね。

岸田 : かつて『LEON』をやってたときに、読者の方から「こんなにカッコイイ本を作ってくださってありがとうございます、毎号買っています」という言葉をいただいたことがあったんですが、編集長の僕からすると、もっとカッコイイ本はいくらでも作れるわけです。でもその中で、一番ビジネスができると思うラインを引いて、その範囲内で編集部に仕事をさせているんです。小売店や商社と同じ出版というビジネスなんですから。何よりもビジネスできるラインを見極めて、続けていくことが大事なんです。

――なぜ、出版社はWebに対して積極的になれないんでしょう?

岸田 : もともと出版社のビジネスというのは、面白いコンテンツを作って書店などで有料発信し、その売上げで成り立つというものですよね。じゃあ面白いコンテンツをWebで流して、果たして商売になるのか、と考えると、そこで有料化して成功させるのはたしかに難しい。たまたま、僕がやってきた『LEON』というビジネスは、雑誌の売り上げなんてたかがしれたもんで、収入の主軸は圧倒的に広告収入になっています。だから、Webについても考えやすかった、というのはありますね。

――そうですね、出版社の場合は「いくら利益を出したか」よりも「部数がどれだけ出たか」が重視される傾向がありますよね。結局返品されて赤字になることもあるのに(笑)

岸田 : 僕はそういうのを「出版原理主義」ってよんでいるんです。雑誌はまず販売部数であり、広告は後からついてくるものだ、という考え方があります。昔はその普通の流れでよかったのかもしれない。ですけど、読者の趣向が多様化し、階層化が進んでいく中では、雑誌のほうも、読者の数が少なくてもビジネス化していける媒体を作っていかなければならないと思います。

――出版界全体が危惧していますが、雑誌という媒体は、今後どうなっていくのでしょうか。Webにとって代わられるのでしょうか。

岸田 : いわゆるニュースなどの事実報道については、すでにWebのほうが速いし情報量もあるから雑誌はかないません。だけど、われわれが作っているようなコンテンツは、事実報道とは違います。すでにWebというメディアは、スピード以上のものを求められている時期だと思うんです。だけど、それを満足させるコンテンツがいまはまだ十分に発信されていないと思いますね。

――Webの世界では、情報の作り手はユーザー自身が主体となるといわれています。

岸田 : 逆の言い方をすれば、Webの世界でコンテンツを作るプロに、今のところまだたいした人がいないんですよ。だから個人のブログのほうが面白いじゃん、ということになる。でも、まだ雑誌業界のほうが、コンテンツ作りの技量がある人が多いと思います。

――その雑誌作りで最も成功した岸田さんがWebも作るとなると、状況は変わってくるかもしれませんね。

岸田 : これは非常に不遜な言い方ですけどね、われわれがこの会社を興して『@zino』というのをやってなかったら、まだまだ雑誌はいけると思うんですよ。イケてる情報がWebマガジンでどんどん発信されるようになると、雑誌というメディアそのものが衰退していくかもしれませんね。読者の方々は紙かデジタルか、なんて「機能」でくっついているわけではない、あくまでも「コンテンツ」でくっついているんですから。そういうこともすべてひっくるめて、これは送り手次第ということになるんじゃないでしょうか。


岸田社長の話は非常に明快で歯切れよい。テレビで見かける「ちょいワルなオヤジ」の姿とはまた異なる、ビジネスの世界で戦う経営者の力強さを筆者は見た。 「Webの登場で紙は生き残れるか」と出版ギョーカイが戦々恐々としている中で、岸田社長は「メディア」を飛び越え、自身の「コンテンツ」に圧倒的な自信を持っている。同じ業界の隅っこに携わる者として、大変勉強となる取材であった(取材・文/梶原治樹)

■@zino(ジーノ)http://www.web-zino.net/
■(株)KI&Company http://www.kicl.jp/
■ライフスタイル誌「zino(ジーノ)」 3月24日創刊
■岸田一郎ブログ
 「キ・シ・ダ・イ・ズ・ム」 http://ameblo.jp/zino-kishida/


書籍一覧表

LEONの秘密と舞台裏 カリスマ編集長が明かす「成功する雑誌の作り方」
『LEONの秘密と舞台裏 カリスマ編集長が明かす「成功する雑誌の作り方」』
岸田 一郎(著)
【ソフトバンククリエイティブ】
1,449円(税込)
ISBN-4797332026
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