出版ギョーカイ暴れん坊クン著者・編集者から物流、営業、書店員・・・etc.「出版ギョーカイ」の中でもひときわ目立つ「異色な人物」にスポットを当てるインタビュー企画。通して読めば出版の未来像が見えてくる!?

第6回 「雑誌冬の時代」に福音!?「デジタル雑誌」は出版ギョーカイの救世主になるのか?

今回の暴れん坊クン (株)富士山マガジンサービス 西野伸一郎氏


「雑誌の定期購読専門」のオンライン書店として急成長を果たす富士山マガジンサービスが、2007年2月より「デジタル雑誌」の取り扱いを開始した。紙の雑誌と同じものをパソコンの画面上でめくりながら読むことができるサービスだという。ゆくゆくは、紙の雑誌はなくなってすべてデジタルに置き換わってしまうのだろうか? 同社社長の西野伸一郎氏に話をうかがった。 

誌面をパソコン画面で「再現」。紙雑誌と同じように読めるデジタル誌の技術と可能性

――2007年2月から、富士山マガジンサービスではデジタル雑誌の扱いを始めたそうですが、どのようなサービスなのでしょうか?

西野 : 僕らが始めた「富士山デジタル」というのは、一言で言うと紙の雑誌と同じものをデジタル化して販売し、パソコン上でぱらぱらめくって読めるようにするというサービスです。もともとアメリカにZinioというデジタル雑誌販売の最大手会社があるのですが、そちらと提携を結び、彼らの技術を日本用にローカライズして使っています。

――アメリカではデジタル雑誌がずいぶん普及しているそうですね。

西野 : Zinioはデジタル雑誌のオンライン書店の中では配信数ベースで90%以上のシェアを誇るサイトで、現在は400誌の雑誌をデジタル化しており、340万人のユーザーに対して累計で5500万部を発行しているそうです。あの『PLAYBOY』や『PENTHOUSE』も扱っているのですが、それはZinioのシステムは著作権管理機能(DRM)がしっかりしており、違法コピーや許可されていないページのプリントアウトを防ぐことができているからなんです。

――おもにどんな雑誌がデジタル版で人気なんですか?

西野 : やっぱりIT系が強くて、そのへんのジャンルだと、全体の部数の40%くらいがデジタルになっているものまであります。それと、ジャンルに限らず、アメリカの場合では英国や豪州などのアメリカ国外からの売上げが半分を占めているそうですね。日本でも、国外に在住する日本人が富士山デジタルで日本の雑誌を購入してくれるのではと期待しています。

――その「富士山デジタル」では、どんな雑誌が売られているのですか?

西野 : 『Newsweek』『ダカーポ』をはじめ、全28誌がデジタル版になりました。『R25』などのフリーペーパーも扱っており、早くも購読の申し込みが集中していますね。今後は大手の出版社もデジタル雑誌対応を次々と始めていくと期待されしています。

――富士山マガジンサービスではもともと紙の雑誌を定期購読で扱っていましたが、デジタル雑誌はどのように販売していくのですか?

西野 : 今までの雑誌販売のページと同じですよ。たとえばこの「船の旅」という雑誌のページを開くと、紙雑誌の年間購読の受付ができて、一冊だけでも買えて、デジタル版がほしければこちらをクリックして、と。現在、紙の雑誌でわれわれは約2400誌以上を取り扱っているので、今後はこれらの雑誌の電子版をすべて取り扱っていきたいですね。

――そもそもなぜ、誌面をパソコンの画面上で「再現」しなければいけないのか、という疑問があるんです。普通にネットでよくある横書きのレイアウトに直してしまえばいいのではと…。

西野 : 紙の雑誌と同じレイアウトで、同じように読めるようにするということは、出版社にとっては二つの意味で重要なことなんです。一つは、雑誌の見開きでの文字や記事の配置、写真などのレイアウトは計算され尽くした表現形態であり、これはHTMLで表現しきれるものではありません。もう一つはコスト面です。雑誌を作るときに使用した原稿や写真をWebマガジン用に再構成するには、そのためのコストがかかります。そのうえ、二次使用をするにあたっては、カメラマンや執筆者に再使用料を支払わねばならないケースもあります。ですが、こちらの場合は紙の雑誌を作るのに使用したデータをそのままPDFとして利用していますので、さまざまなコストが軽減できます。

――なるほど、作る側にとってはラクな話ですね。

西野 : また、たとえばアメリカでは、ABC協会が雑誌の部数をカウントするにあたって、デジタル雑誌のダウンロード数も紙の雑誌と同様に1部として数えられます。日本でも日本ABC協会とはすでに話しをすすめていますが、もし同じようになれば、これは出版社のもう一つの収益源である。広告収入にプラスの影響を与えられると思います。

――「紙の雑誌と同じもの」ということにすれば、出版社にとっては部数を伸ばして広告を入れる面で重要となってきますね。

西野 : 最初は部数もそれほど大きくないから、デジタル雑誌の部数が即クライアントさんの反応に返ってくるわけではないでしょう。でも、デジタル版のほうには音声や動画を入れてよりリッチな表現をしてみる、といったプラスアルファの効果も期待できると思いますよ。ゆくゆくはデジタル雑誌広告大賞、なんてのができてクリエイティブも評価されるといいですよね。

――とはいうものの、私の小さいノートパソコンでは、そのままでは本文が小さすぎて読みにくいんですよね…。

西野 : 確かに、ノートPCでは、一度フォーカスをしないと本文をじっくり読めないという問題はありますね。ですので、実は富士山デジタルのリーダーには、「ラク読み」機能と呼ばれる、スペースキーひとつ押し続けるだけで、拡大表示→見開き表示を繰り返しながら読むことができる機能を入れています。パソコンのパフォーマンスが低かったころは動きも鈍かったですが、今ではずいぶん技術も進歩して改善されていますよ。実際にやってみないと感覚的に分らないかも知れませんが、読者の視線を予測するような形で雑誌を読むことができるので、一度使い始めるとこの機能なしでは読めなくなります。

――なるほど、動きもスムーズですし、これならストレスはほとんど感じませんね。

西野 : それと、デジタル雑誌になったことで「検索して読む」という行為ができるようになったのが新しいんです。例えば『Newsweek』を例にしてみましょうか。「イラン」で検索すると、イランについて書かれた記事が、2ページ目と11ページ目と・・・と一覧になってでてきます。クリックすれば目的のジャンプしてすぐ読めます、という。これは雑誌の読み方が変わりますね。

――いま、『本の雑誌』も、索引を最後のほうのページで一生懸命作っていますが、記事を探したい人にとっては、この機能はとてもいいですね。

西野 : 将来的には、販売サイト上でも記事検索ができるようにしたいと思っています。米国のZinioではすでにやっているのでお見せしますが…例えば、私の尊敬する経営者であり今も動向をウォッチしている「ジェフ・ベゾス」(米国amazonのCEO)という名前で検索をすると、ベゾスの名前がどの雑誌の何ページに載っているか、という検索結果がざーっと出てくる。これで、そもそも『ビジネステクノロジーレビュー』なんて雑誌をまったく知らなかったお客さんも検索をきっかけにこの雑誌の存在を知ることができ、新たな購買につながると期待できます。

――紙の雑誌とデジタル雑誌とでは、販売金額は違うんですか?

西野 : 価格は出版社との相談で決めています。無難なところで、紙の雑誌と同じ値段というところが一番多いですね。本来、デジタル雑誌は印刷費がかからないのだから、安くしてもいいと思うんですけど、やっぱり書店さんなどに気を使っているようですね。
これは、われわれがもともとやっている紙の雑誌の定期購読というビジネスでもそうなんですが、アメリカの場合は定期購読の場合ディスカウントをするのが当たり前で、そのために定期購読比率が80%以上と、とても高いんです。日本の場合は10%強くらいあるのかな。やっぱり値引きをするケースが少ないので、定期で買う理由がないですよね。これが定価の30%引きということになれば、一気に違ってくると思うんですよ。

主役はあくまでコンテンツ。デジタル雑誌は次のステージに入るための気軽な第一歩

――西野さんの立場から、改めて「雑誌の魅力」をお教えいただきたいのですが。

西野 : 雑誌というのは、特定の分野に造詣の深いコンテンツ作成のオカネをもらうプロの集団が、そのネットワークと専門技能を駆使してちゃんとした情報の収集、作成、編集をし、お金をもらってチャントした情報を整えてくれているもので、その情報はやっぱりとっても必要なんですよ。確かに、インターネットの玉石混交な情報の中にすごい才能がまれに埋もれてて、そういうものがロングテールな市場を形成するというのも事実です。今はそっちのロングテール側に注目が集まっているけど、プロが編集して整える情報のほうもは情報で、絶対に必要なんだと、そういう風に思います。

――世間では「Web2.0」とかがもてはやされていますが、それは作り手側にとっては力強いお言葉ですね。

西野 : Googleが世界中すべての情報を体系化するという野望を描いているそうですが、彼らをも持ってして、まだ全世界の情報の3%くらいしか捉えていないと言われています。いまだに圧倒的に「見えない情報」のほうが多いんですよ。そこでgoogleはいま、アメリカの図書館の蔵書をすべてデータ化しようとし始めている。アマゾンはアマゾンで「なか見!検索」をはじめている。これはみんな「見えないWeb」に対する方法論のひとつなんですよね。

――なるほど。

西野 : すべての情報がデジタル化していくなかで、まだまだ検索の対象にならないものが山ほどある。で、これからは第二フェーズとして、「オカネを出さないと見られない」ものが出てくる時代が来ると思うんですよ。それの第一歩としてわれわれのサービスがあると思います。

――こうやってネットでデータを販売するようになると、最新号だけではなく、バックナンバーや昔の記事も売れるようになりますね。

西野 : ええ。実は、雑誌を作る出版社さんのコンテンツ作りは、とてももったいないと思うんですよ。雑誌の種類にもよりますけど、せっかく手塩にかけて作ったものを、次々捨ててしまっているじゃないですか。週刊誌だったら、その週読むものを作って公開するのはそれでハイおしまい、って。出版社がいま商売しているのは、ほとんどがショートネック(ロングテールの反対語として)の部分、旬の部分だけなんですよね。

――確かに、雑誌に載っている記事が単行本や文庫になるのは、ごく一部で、ほぼ大多数は捨てていると言えるでしょう。

西野 : でも、たとえばデジタルで記事を残していけば、バックナンバーの保存や販売にほとんどコストがかからないですよね。そういうことがビジネスモデル的にはできるはずなのに、コンテンツを捨てまくっていますよね。せっかく手をかけて手塩に掛けて編集したコンテンツなのに。

――出版社の多くは「紙の本を作ることが本業」だと思っています。しかし、やりようによっては集めた情報をWebやケータイなどに配信してもいいわけですよね。

西野 : そうです。出版社はコンテンツ生成のプロであるべきで、いろんなメディアをどんどん使うべきだと思うんですよ。紙でもデジタルでもいい、いろんな形態でいい。ポッドキャスティングで音声配信したっていいじゃないですか。でもそのステージに入るために、まず手軽なところでデジタル雑誌からどうですか、とわれわれは提案しているんです。

――なるほど。

西野 : 紙のうちはデジタルじゃない。デジタルじゃないと、まず文字情報が検索で引っかかってこない。PCで見せるためにまずデジタルにしましょう、というのが私の出版社さんに対する提案なんです。出版社さんにあんまり大きなジャンプをさせようしてもらおうとすると、取り合ってもらえないんですよね。でも、デジタル化していくということは世の中の流れなんで止められない。だったら、踏みやすい小さなステップを作って、一歩一歩進んでいきましょうと、そう思っているんです。

――既存の雑誌をデジタル化して両方売るのであれば、本を作るためのコストがかなり軽減されます。

西野 : 今後はいろんなデジタル雑誌が出てくると思いますが、まずゼロから立ち上げようとすると、そもそも雑誌なんて当たるも八卦当たらぬも八卦という側面があるじゃないですか。だから、まず成り立っているコンテンツを流用するのが一番じゃないかと。出版社ってまだまだデジタルに関しては遅れているところが多いですから。

――出版社は、取引先である取次会社や書店に気を使うがゆえに、デジタル関係の事業に本気で乗り出せないという事情もあると思います。

西野 : だったら、リアル書店の側が、ネットのほうに乗り出していけばいいんですよ。アメリカであれだけ成長したamazonのシェアって、小売り全体から見ると10%くらいなんですよね。そもそもインターネットでモノを買おうという人は、全体の15%から20%しかいない。日本だと、書籍で5%くらいかな、たぶん同じような道をたどると思うんですよ。ほかの国もだいたいそうで、結局8割以上の人がリアル店舗で買い続けることに変わりがない。

――1店舗としては大きいですけど、売り場全体で見たら、やっぱりリアル店舗が重要なのには変わりがないんですね。

西野 : だったらリアルのほうがネットを取り込んでいって、たとえば雑誌の記事なんか書店でどんどんコピーして売っちゃえばいいんですよ。1冊買うと300円だけど1記事だったら100円です、とかそういうビジネスを作るべきだって思います。変わらない、守られているもので成長するものはないですよ。やっぱり変わらなければ取捨選択されてしまう。

――いずれにしても、今年2007年は、デジタル雑誌元年という感じがしますね。

西野 : 今までは、デジタルコミックのほうが先に走っていて、ぐっと市場が伸びてきていますよね。雑誌は今からいろいろ出てくるんじゃないかなと思います。でも、結局は中身ですよね。コンテンツ次第なんですよ。お客さんが求めているコンテンツがなければ、こんなのいらない。僕らは脇役なんですよ。もちろん使い勝手をよくしていく努力はしていきますが、主役はコンテンツなんですから。


「雑誌冬の時代」と言われている。雑誌販売金額は9年連続のマイナス成長となり、広告収入ではインターネット広告に追い抜かれんばかりの状況となっている。「もはや紙だけではマズイ」と出版社の誰もが思っている中に、「富士山デジタル」が登場したのだ。今年2007年は「電子雑誌元年」とも言われており、他にも新たなサービスが次々出てくると予想される。今後の動きに注目したい。(取材・文/梶原治樹)

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