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第90話  そこんとこ、ヨロシク!…な、なんでやねん?

 2002年8月3日(土曜日)晴れ
 最高気温は33.8度。少し涼しい。
 夕刻前。夏休みで忙しくなった海遊館から、ワルそぉ~な孫3人を連れてフラフラになったお爺ぃちゃんとお婆ぁちゃんが乗りこんで来る。行き先は上六。「近鉄の大阪線に乗って赤目四十八滝で有名な赤目口まで帰りまんねん!」…と言う。ご苦労さんです!
 上六は関西人にはお馴染みの街。正式名は上本町六丁目。難波まで近鉄電車が延伸する前は上六が近鉄電車の始発駅であった。今でも八木、伊賀神戸、中川を経由して伊勢志摩方面へ行く軌道の電車は上六が始発駅である。上六から電車に乗ればかなりの高確率で座れる。
 大阪市内にある小学校の殆どの修学旅行は伊勢志摩で集合は近鉄上六の駅が定番である。数年前までは近鉄の修学旅行専用車輌の『あおぞら号』がプラットホームで待っていてくれた。今でもあるんやろかぁ?
 大阪人にあおぞら号の話を振ると必ず全員が、
「懐かしい!あったなぁ~!運ちゃん!うち宮、そと宮、二見ケ浦にふうふ岩!行ったなぁ!」
 と大喜びしてくれる。ははは!よかった!よかった!
(ん…?それって『ないくう』『げくう』に『めおといわ』…のコトかぁ?)

 昔、旅行業界に在籍してた頃、小学生の修学旅行の添乗があった。行き先は広島と宮島。普通ならば新幹線利用だが教頭を言葉巧みに騙し、十倍以上は利益が大きい観光バスで大阪から向かった。学校側も低価格で旅行が出来ると言う事で大喜び!
 運転手も大阪人。ガイドも大阪人。修学旅行を担当する添乗員は騙し専門の極悪人!広島方面から国道2号線のバイパス沿いに宮島が見えてきた。
 出発当初からアホ発言連発のガイドが必死に教本を棒読みしながら、
「みなさぁ~ん!左に大きい島がありますぅ!見えますかぁ~?」
 と殆ど昼寝状態の小学生に振る!
「ふぁ~~~い!」…と小学生の眠たい声。
「あの島が宮島!世界でも有名な、げんとう神社ですよぉ!」
 と元気ハツラツファイト一発馬鹿ガイド!
(…!?あんなぁ、厳島神社が…なんでぇ…げんとう神社やねん!)
 この旅行は旅行業界の有名人、極悪添乗員のウエちゃんがセールスした旅行です。この馬鹿ガイドの一言で仕入のバス代金の中から3万円を「こらぁ、ウチの会社によぉ~恥かかせてくれたのぉ!わぁれぇ~!」…とバス会社を脅して値引き!学校への値引は1円もなし!これで3万円を労せずして粗利益計上!がっはは!大笑い!さすが超一流の営業マン!
 旅行会社での一流の営業マンの条件は、客をどんくらい騙せるか!仕入精算の時にどんくらいヤタケタ言ぅてケチつけて値引きできるか?…で決まる。
 そりゃぁ『地球の歩き方』(ダイヤモンド・ビッグ社/刊)が売れるわいなぁ!
 さぁ、夏休みも後半です!アナタは見事に騙されてまへんかぁ?

 さてさて、お客さんを上六で降ろして上七まで南下。一旦右折して国際交流センターの中の車寄せでUターンをするつもりが、オシッコが出そうなので一旦タクシーを停めて国際交流センターのトイレを拝借。気分ちスッキリで再び車寄せから表通りへ。出口の信号でひっかかる。前を見ていると変な兄ぃちゃんが右から左へ歩いて行く。夏なのに皮ジャンに皮のパンツ。頭の髪はテカテカに光らせてリーゼント。見た目だけでも暑そぉである。一度左へ通り過ぎた兄ぃちゃんが、ムーンウォークのよぉに下がって来て人差指でウエちゃんを指している。何か言っているよぉなので窓を開けて「なぁんですかぁ~?」と手を耳に当てる。

「ヘェイ、ベェビィ~!オォ~、イェィ!」
(はぁ~?誰がベイビィ~やねん?ワシかぁ?)
「アンタのタキシーに乗ってもいいかい!ベェィビ~!」
(やっぱり、ワシや!)…と思いながらドアを開けてしまった。
 あぁ~!運転手の情けない性である。

 これを難しい言葉で『パブロフのイヌ』と言うはずなんやけど、こないだ新世界から三段腹を掻きながら無理矢理に乗って来たコテコテの大阪のオバはんは、
「そりゃ~、運ちゃん!そぉ言うんを『パブロンの犬』…言ぅねんでぇ!知ってるかぁ?あんたにはちょっと難しいかもなぁ!がっはは!」…と大糞笑いした。
(そぉ~か!最近は犬でも風邪薬を飲むんかぁ!)…と感動した一瞬である。
「へぇ~!タクシー運転手は毎日が勉強ですわぁ!お客さん、おおきにぃ!」
「運ちゃんも図書館へ行って勉強せなアカンでぇ!あそこ涼しいさかいになぁ。」
「お客さん!ほんならぁ『ルルの猫』…言ぅんはいてまへんかぁ?がっはは!」
「アンタ、ちょっとオカシイんとちゃうかぁ?」
「エライ、すんまへん!」

 そうやぁ!リーゼントの兄ぃちゃんの話しやった!あんまり大阪のオバはんが強烈やから、皮ジャンリーゼント兄ぃちゃんの話を忘れてしまった!

「ヘイ!ベェイビィ~!イェ~ィ!」
(しゃぁから、なんでやねん!ワイはタクの運転手じゃ!)
「厚生年金、ベェイビィ~!会館へ行ってくれるかぁい!ベイビ~!」
(違う!…ちゅ~ねん!生駒へ生きたまま埋めるどぉ、こらぁ!)
「そこんとこぉ、ヨロシク!イェ~ィ!」
「はぁ?ひょっとしてお宅、矢沢の永~ちゃん!…のつもりかいなぁ?」
「どうして解かるの?ベェィビィ~!不思議だ!そこんとこぉ、ヨロシク!」
「なんでやねん!アホかぁ!」

 ウエちゃん、毎日毎日殆ど一年中、こんな変なの乗してますねん!ホンマに疲れまっせぇ!助けて欲しいわぁ!
 似非矢沢の永ちゃんは、目的地の厚生年金会館に付くまでウエちゃんのタクシーの中で『昼からヒッパレ』…状態!それが又、めっちゃ下手!助けてぇ~!
 15分ほどで西区四ツ橋の厚生年金会館へ到着!
「センキュ~!そこんとこ、ヨロシク!イェ~!」
 と言ってステップを踏みながら降りて行った。
(はぁ~!疲れた!こいつ法律でなんとかできん?どない?キムラ弁護士?)
 ようやく似非矢沢永吉からやっと解放!しかし周りを見渡すと他に似非矢沢永吉は誰一人として見当たらない!オカシイ?変だ!めっちゃ嫌な雰囲気!
「すんまへん?今日はココ、矢沢の永ちゃんやよねぇ?そこんとこ、ヨロシク!」
 と会場へ入り待ちの雰囲気の、ウエちゃんと同年代のオバちゃんに聞くと、
「ちゃうでぇ!ジャ~やでぇ!」…と言う。
「ん…?象印かなぁんかの展示会でっかぁ?」
「あんたぁ何を言うてんのん?」
「奥さんこそ何言うてはりまんのん?」
「チャ~やがなぁ!チャ~!知ってるかぁ?運ちゃん!」
「チャ~…?誰?それ?加藤茶やったら知ってるけど…ちょっとだけよぉ!」
「アホかぁ!」
「アホちゃいまんねん!パ~でんねん!がっはは!」
「運ちゃん!矢沢の永ちゃんは中之島のフェスティバルホールやでぇ!」
「えぇ~~!嘘ぉ~~!」
 と周りを見渡すがタクシーは一台も停まっていない!
(エライ、こっちゃ!)…とウエちゃんタクシーを急発進。100m前方角の信号が赤。ルームミラー越しに後を見たら似非永ちゃんの兄ぃちゃんが何かを叫びながら必死で追いかけて来る。なんとなく、
「ヘイ!ちょっと待ってよ、ベェイビィ!そこんとこ、ヨロォシク!」
 と言っているよぉな気がする。(誰が待つかぁい!サイナラ~!)

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