3月11日(木)

 本日もふたつの打ち合わせが入っており、その合間をぬって営業を続ける。

 事前注文の〆日間際になると5分、10分が惜しい。「どこでもドア」があったら良いなと思うけれど、あったらあったで一日30軒くらいは廻れるようになるわけで、それでは身体が壊れる。

 夜、会社に戻ると顧問目黒がどっしりと座っていた。何だかその目が妙に充血している。そういえば1月程前、白内障だか緑内障だと騒いでいた。もしかして悪化でもしてしまったのではないかと心配になってしまう。もし目黒が視力を落としてしまったら、まったく仕事にならないではないか。

 ところが心配になって確認したところ、帰ってきた言葉は「いや~、重松清の『卒業』(新潮社)を読んでいたら泣いちゃってさ」であった。ガクっ…。

 しかししかし。実は僕も数日前、その『卒業』(新潮社)を読みつつ営業をしていて、目黒同様「杉江さん? 目、真っ赤ですよ」なんて書店員さんから指摘されていたのである。さすがにそのときは恥ずかしくて「花粉症なんですよ」と誤魔化したが、いやはや同じ本を読んで泣いた者同士なら何でも話せるではないか。その後は目黒と『卒業』のなかの4篇中、どれが良かったか?で大いに盛り上がる。ちなみに僕は「まゆみのマーチ」で目黒は「仰げば尊し」だった。

 それにしてもこの『卒業』。タイトルから勝手に重松清お得意の少年もので、定時制高校とか不登校の生徒が卒業を迎えるなんてパターンかと想像していたんだけど、読んでみるとまったくそういう話ではなく、全編、親の死がテーマの短編集であった。

 30歳を過ぎて、そして親も還暦を越え、考えたくないけれど「親の死」が一歩一歩近づいていきているそんな僕には、どれもこれも胸に刺さる話だった。寝床で読了後、思わずもう一度起き出し、ゆっくりと梅酒を飲みながら、明け方まで「その日」のことを考えさせられてしまった。

 重松清は、どうしてこうもいつも一番考えたくない、けれど考えなければならない部分をついてくるのだろうか。

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