8月29日(水)
昨夜、営業を終えて会社に戻ると、顧問の目黒さんから電話がかかってきた。その声は妙に枯れていて、一瞬夏風邪かと思ったが、そうではなかった。
「杉江、川上健一の新刊『渾身』(集英社)読んだ? オレ今、読み終わったんだけど、号泣だよ、号泣。何でもない話なんだけど、すごいんだよ。それだけ」
電話があっけなく切れたが、そこまで言われたら読まないわけにはいかないだろう。だってこんな興奮は目黒さんと僕でシビレにシビレた高橋克彦の陸奥三部作『火怨』『炎立つ』『天を衝く』(すべて講談社文庫)か、あさのあつこの『バッテリー』シリーズ(教育画劇、角川文庫)以来なのだから。
そういえばそんなやりとりを目黒さんが『笹塚日記 ご隠居篇』で振り返っていたっけ? と会社の見本本を持ち出し、最終日のところを読み出したら、思わず涙が溢れてきてしまった。
嗚呼、あの頃、楽しかったなぁ。目黒さんと面白い本の話をして、意見があわないと「お前にはまだわからないんだよ」なんていじけちゃうんだよなぁ。書店さんに教わった新刊情報とか伝えるとしっかりメモするくせに、発売時期にはすっかり忘れていたりして。そうそう、目黒さん絶賛の本があって、本人はその本が文庫になったときに解説を書く気満々だったのに、その約束を編集者さんが忘れていて、目黒さんがその文庫を手に持ったまま呆然としていることもあったっけ。
今、気づいたんだけど、結局、僕の本の雑誌社における友達は目黒さんしかいなかったんだなあ。目黒さんがいなくなってから半年、どんな面白い本を見つけても話す相手がおらず、仕方なくこの日記に本の話をやたら書いていたりする。何だか毎日に張り合いがないのである。
なんてことを考えていたら、新宿で『渾身』を探すのを忘れて帰宅してしまった。ウワッ! 号泣だよ、号泣。
そして本日、会社に出社し、新宿の紀伊國屋書店新宿本店さんを訪問がてら、忘れずに購入し、高田馬場を経由し、渋谷のブックファーストさんを訪問。
散々世話になったコミック売り場のSさんや、仕入れのHさんなどと話していると「ラスト8週」なんて言葉が聞こえてくる。そうなのだ、ここに、ブックファーストがあるのも、あとちょっとなのである。
じっくりそんなことを考えながら売り場を廻っていると、そこかしこで担当者さんの最後の最後のやぶれかぶれ好き勝手フェアが開催されていることに気づく。ウワー、むちゃくちゃブックファースト渋谷的で面白いよ! おそらくこのラスト8週のあいだ、日本で一番面白い本屋さんであろう。必見! でも号泣だよ、号泣……。