10月10日(水)

『本の雑誌』12月号の搬入日。特集は坪内さんと目黒さんの書店で遊ぼう対談と大槻ケンヂさんと高野秀行さんのマンセー・ムーノ人間対談。どちらも非常に面白い。

助っ人の鉄平は寝坊で遅刻。悪びれないのが今時の学生だ。

搬入後は一路、小田急線へ。

かつてからそうだったけれど、本厚木の有隣堂さんが面白い。手作りのPOPや独自のフェアが展開されてる。今は坂木司さんが熱烈プッシュされており、担当のIさんが大好きなのだとか。いやもちろん好きなだけでなく、しっかり売れているそうで、坂木さんや大崎梢さんはジワジワとファンが増えている、とのこと。

海老名のS書店ではOさんが『女王国の城 』有栖川有栖著(東京創元社)を「売りたいんですよ〜」と叫び、町田のYさんでは久しぶりに文芸&文庫の担当に戻られたSさんが、「あっという間に心がすさんだ」と苦笑い。この数年で、文芸書、一段と売れなくなりましたよね……。

その後はL書店さんやA書店さんを廻った後、小田急のH書店を訪問し、僕が尊敬するベテラン書店員さんのひとり、Cさんとお話。

ここ最近の名作復刊の動きを喜ばれているようで、ケイタイ小説も売るけど、10年、20年後も残るだろう作品をしっかり置いていきたい、しかし書店をめぐる状況は一段と苦しくなるだろう。おそらく今、百貨店や電器屋で起きている合併と再編成のようなことがナショナルチェーンの間で起こるのではないか、取次店が株を公開したらどうなるか、などなど、本の面白さだけに留まらず、書店業界、出版業界の全体を俯瞰した話がぽんぽん飛び出す。

 そういえばこの「炎の営業日誌」を読んでくれている若い営業マンの方から「杉江さんは業界全体のことを考えているから偉い」なんて言われたことがあるけれど、10年くらい前までは、わざわざ勉強会なんてしなくても、飲み会でこういった業界全体に関することを真剣に議論していたのである。僕はその受け売りであって、全然偉くもなんともない。現にこのCさんをはじめ、ベテランの書店員さんは、視野がとっても広いのだ。

 Cさんとの話を終えて、しばし考える。

 数年前まで自分のなかで「斜陽産業」で働いているという実感があったが、今や斜陽ではなく、崩壊した産業で働いているという認識になりつつある。

 書店の現場を見てみると、本は売れていない。しかし取引条件は変わらない。どこを削ってお店を存続させるかといえば、書店に削れる経費なんて人件費しかない。社員は減り、店舗の人数も減っていく。かつてはベテランの書店員さんのサブ担当について経験を積んでから担当を任せられるような書店員という仕事は、アルバイトさんが初日から担当を持つようになる。そういう人にも維持できるようにコンピュータ化が進む。社員は社員でそういう状況に疲れ切り、多くが30歳前後で辞めていく。

 あと数年したらネット書店のリアル版のような書店ができるのではないか。店員さんはレジにしかおらず、お客さんはお店に入ってきたらすぐ検索機を叩き、表示された棚番に向かう。隣りに並んでいる本なんて関係ない。文芸書の隣りに実用書や医書が並ぶかもしれない。とりあえず入荷順に並べればいいのである。いや並べるしかできないくらい人員を削減せざるえない。そんな恐ろしい売り場が誕生するまでもう一歩のような気がしている。

出版社は出版社で売れないことを出版点数を増やすことで誤魔化すしかなく、編集者も営業マンも、もはや1点1点手をかけるなんてことができなくなっている。営業も編集も疲労困憊。薄口の本が何の工夫もなくどんどん世に出て行く。お客さんは本に魅力を感じなくなる。

一部の大手出版社以外、この出版業界で働く人間、そして作家もみんなカツカツでしか生活していけない。いやもうカツカツでも食えない業界になりつつある。

しかしなぜそんな今も真っ暗、お先は暗黒な業界で、妻子ある身なのに働いているかというと、本が好きだからである。それ以外ない。本を触っているだけで嬉しくなってしまうのだ。

 電子書籍などから端を発した電子化の流れなかで「本は生き残れるのか」という議論がされてきたが、おそらくこれからも本という物体は残るだろう。ただ本や雑誌を売ることで商売をする出版産業という産業は、衰退絶滅するのではないか。

 小田急線に揺られながら、そんなことをずーっと考えていた。
 妻よ、子よ、本が好きな父ちゃんでごめんね。

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