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WEB本の雑誌>【えり抜き本の雑誌】乱読道場千本ノック>バックナンバー

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【更新日】2006年6月9日(金)
乱読道場千本ノック

 永遠の新人・藤原ちからも入社してはや1年。未だ彼にできることはといえば、日々、ささ家のぶりてり弁当(525円・大盛りサービス)を食べることだけであった。見るに見かねた「本の雑誌」の総帥・浜本は、POP姫の元で修行させることに。実はPOP姫とは世を忍ぶ仮の姿、何を隠そう、彼女こそ、一子相伝の乱読流家元書店員・高橋美里だったのである。単行本も文庫もノベルスもひっくるめたオールジャンルの課題本が、話題の新刊からあの名作奇作まで、推薦コメント付きで次々登場!
  命短し恋せよ乙女、乱読道場いよいよスタート!

今回の本
 
今回の本 『太陽の塔』
森見登美彦
新潮文庫
420円(税込)
発売日:2006年6月
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Amazon.co.jp
本やタウン
 
POP姫コメント 〜ときわ書房聖跡桜ヶ丘店の書店員。POP姫コト高橋美里さん〜
   
大きな声で言いたい。
妄想はおおきな力である!それは世界を変えるかもしれない!と。

これは、ある大学生が失恋して、そこから生まれいづる何かを妄想に置換して京都を疾走するという壮大なお話であります。
ストーカーと純愛、恋愛と妄想。その2つの境界線をさまよいながら駆け抜ける男子たちの青春。この孤独な戦い。もう目が離せません。
 

 
美里さん今日からよろしくお願いします。いちおう、イチローばりの広角打法を身につけるべく、なんでもかかって来いやーっ!!という意気込みだけはありますので、大魔神のフォークであろうと、消える魔球であろうと、どんどんやばい球を投げ込んでください。

で、さっそくお勧めいただいた森見登美彦『太陽の塔』(新潮文庫)ですが……。

な、な、な、いきなりど真ん中ストライクですよこれは!!
真ん中すぎて見逃し三振バッターアウトですよ!!! あかんではないかっ!
いや、ほんと面白い!!!

妄想が世界を変える。そう信じていた時代がぼくにもあったのです。だから『太陽の塔』はもうほんと自伝を読んでいるような気分に。ああ、若かったなあ。いや今も若いけどほんとに痛いくらいに若かったなあ。
(以下、めくるめくノスタルジックな回想が入ります。ミュージックはお好みで。)



 * * *


20代の前半、まだ若く、世間を知らず、「幸せ」というものをどこか遠い彼方の岸辺に流れつく形而上学的なものだと考えていた頃。ぼくは友人とふたりで「日本妄想協会(NMK)」なる秘密結社を設立しました。日夜アタマの中を渦巻く行き場のない妄想、それらをメールに書いて送り合うという、実に不毛で、非生産的で、おまけにキモチ悪い男汁満載なとてもとても近寄りがたいダークな色の会でした。それでも、他に居場所もなく、無駄に多い青春エネルギーの矛先をどこにも見出せないぼくらは、NMKの版図を全国に拡大し、ゆくゆくは世界を征服してやるぜふふふ!などと内なる想いを燃やしては、共に闘う同志を増やすべく勧誘活動にいそしんでいたのです。

合言葉は、「妄想は地球を救う」。

もしも世界中のすべての人々が、いつの日か、お互いの妄想を心ゆくまでしっぽり語り合うことができたとしたら、そのときこそ永遠なる平和が約束されるはずである。さあ、みんな、立ち上がれ! 我々と共に勇気を出して妄想を語り合おうではないか……。

けれども、妄想は地球を救うどころか、自分自身さえも救うことはできませんでした。それどころか、ぼくらは孤立し、徹底的に痛めつけられました。妄想家であることをカミングアウトした途端、それまで親しくしていた友人はぼくを前方50mに確認するやいなや建物の陰にそそくさと身を隠すようになり、あと一歩で彼女になりそうだという女の子からはぱったりとメールが途絶え、ひどい人になると「ケッ、妄想? ばっかじゃねーの」と鼻で笑いやがりました。周囲からは「妄想家」のレッテルを貼り付けられ、食堂のカレーの量が減っている、あるいは、なんとか徹夜で宿題を終えて講義に出ようとしたら休講になっていてあの努力はなんだったの、なんていうあからさまなイジメが平然と行われるようになりました。要するに、ぼくらの高邁な思想は世間様には理解されず、受け容れられもしなかったのですね、てゆうか当たり前だけど。

一向に追加登録のない、ふたりだけの「NMK会員名簿」を見ながら友人はぽつりと言いました。「我々は生まれてくる時代を間違えたな、マーフィ」。そう、まさに『太陽の塔』そのまんま。「そうだね、ジョーイ……」。でも、じゃあいったいいつ生まれてくればよかったのか。ぼくらは黙ってコンビニで買ってきた安ワインを飲み干しました。酸化防止剤のざらついた味がしました。

ところが、どんよりとした空気の中で不遇をかこち、安ワインと世間を呪いながら、うまいビールが飲みてえなぁでもお金ないなちくしょー、と悶えていたある日のこと。何をどう間違ったのか、日本妄想協会の門をぶらりと訪ねてくる人が現われたのです。しかも女の子! しかもしかも誰もがはっと振り返るようなすごい美人!! ぼくらが地上30センチくらい飛び上がって色めき立ったのは言うまでもありません。ついに春が来たぜジョーイ! やったなマーフィ、オーイエー! 

ぼくらは彼女を日本妄想協会のVIPルーム(とある古本屋の奥にひっそりと存在した)に案内し、溜め込みすぎてもはや原形を留めていないお互いの妄想の成れの果てのそのまた残りかすめいたものを、ここぞとばかりに披露して語り合いました。土曜日の午後をちょっぴり楽しくするささやかな妄想から、共謀罪でとっつかまってもおかしくないような大それた妄想まで、ぼくらの妄想はとどまるところを知らず暴走したのです。少し頬を赤らめつつ、その愛らしい口元からこぼれるように出てくる彼女の妄想は、素敵というほかありませんでした。澱みきっていた室内に、さわやかな風が吹き込んできたような気がしました。ああ、心の窓がひらいたよ、もしかしたらこれを幸せと呼ぶのかもしれないな、ジョーイ……。そうだな、マーフィ……。

しかし幸福な三角関係はいつまでも続かないもの。ひと月も経たぬうちに、ぼくの中で、彼女を独り占めしたいという欲望がむくむくと頭をもたげてきたのです。ああ人間とはなんと醜く愚かな生き物なのでしょう。ぼくは自分の身勝手な欲望を呪いました。彼女は大切な仲間だ同志だ友達だと暗示をかけてみたりもしました。けれどもどうしようもありません。すまん、ジョーイ。わかってくれとは言わないが事実として受け止めてくれ。でも、これからも友達でいような。そんな虫のいいことを考えたぼくは、せめて円満に事を進めようとして、友人にそれとなく切り出したのです。「あのさ、彼女、ちょっといいと思わない? 美人だし、妄想すごいし、いいよね? だからその、つまり、いいと思うんだよ」

友人は言いました。「やっぱりお前もそう思うか。実はさ……」。

……えー、内容は推して知るべし。ぼくの知らないところで、もうすでにデキていやがったのです、こやつらは。知らぬはひとりばかりなり。

日本妄想協会はこうして壊滅。友人はといえば、今でもその彼女と仲良くやっているようです。幸せになってくれよな。



 * * *


えーと、どうでもいい回想が長くなりました。まあそんなこともあって、妄想全開小説『太陽の塔』は、ぼくの青春と言っても過言ではないのです。自分の自転車に「まなみ号」と名前をつけ、別れた彼女を「研究」と称して追跡し京都市街を走り回る「私」。その「私」が指導者と仰ぐ孤高の妄想家・飾磨。三次元がこわいようーと部屋に閉じこもる大男・高藪。自らの妄想に身心を蝕まれながら、それでもさらに孤独な世界に引きこもる暗澹たる顔つきの井戸。彼らは「鴨川等間隔の法則」に挑み、芥川龍之介ふうの漠然とした不安と闘い、松浦亜弥オフィシャルファンクラブを敵視し、恋人たちのクリスマスイブを断固粉砕しようと試みる。「もうそろそろ、幸せになりてえ」とふっと洩らしながら、しかし「聞かなかったことにしてくれ」とストイックに前を向き自らを奮い立たせる飾磨。そんな妄想四天王が四条河原町で起こす起死回生の一発とは!? 「私」と水尾さんの恋(?)のゆくえやいかに!? このはちゃめちゃ妄想青春物語、涙なくしては読めません。ほんと、切なく哀しく笑える素晴らしい小説です。

ちなみに、巻末についた本上まなみさんの解説もグッド。「わたしごのみです」だって。うう、ありがとう。この一言だけで、あと5年は生き延びられます。

 

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