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スティーヴ本郷の「スポーツ観戦中毒者にスポーツ本は必要か」
 
■4月14日:第19回

 NHK『にんげんドキュメント』の「アン投手の甲子園」に涙腺をやられちまったスティーヴです。なんだろう、どうしてこんなにジンワリとこみ上げてしまったんだろうか。
 東洋大姫路のエースとして春のセンバツをわかせたアン投手。花咲徳栄との延長15回引き分け再試合をはじめ、ひとりで648球を投げた彼はベトナム国籍の選手として知られる。2年前の夏の甲子園でも1年生投手として活躍し、そのときもずいぶん話題になった。
 でも、個人的には2年前の記憶があんまりなくて、ふーん、ベトナム人の高校球児もいるんだ、珍しいなあくらいにしか思わなかったもので、今回初めてその詳しい経歴を知りました。

 アン君の父親は南ベトナムの警察官だった。そのため、ベトナム戦争後に職を奪われ、住処も追われて小さな村で暮らしていた。このままでは子供たちの将来がないと考えた両親は祖国脱出を決意。子供を連れて漁船に乗り、ボートピープルとなった。
 目的地があったわけではない。日本のことも知らなかった。漁船は漂流の末、千葉県沖で救出され、一家は日本に住み着くことになった。そして1年後、アン君が生まれた。
 やがて野球に興味を持ったアン君をサポートしたのは、兄のトリーさんだった。給料でグローブを買い与え、弟を強引に左利きに直した。野球のことを勉強して、左利きが有利と知ったためだという。さらに弟の身体を大きくするために、毎日、巨大なビールジョッキで一緒に牛乳を飲み、食卓では自分のオカズを弟に食べさせた。野球の理論書を見つければ、買ってきて弟に読ませた。

 ……と内容を紹介していくとキリがありませんが、どうもこのお兄さんの姿にやられちまったみたいです。泣かせるぜ、ぐっすん。
 ほかにも、両親が手を握り合いながら甲子園のスタンドで息子を応援する様子とか、神社へお参りに行くお母さんとか、あ、近いうちに再放送があるだろうから、あんまり書かないほうがいいか。
 しかし、そうやって揺さぶられた自分に対して、責めのような問いかけがないわけではない。
「おまえが感動したのは、ボートピープルになんらかの偏見なり、立ち位置の高さがあるからじゃないの? もし台湾やタイの一家の話でも同じように感動したのか?」
 ううむ、わからない。

ピッチングの正体
『ピッチングの正体』
手塚一志 著
【ベ−スボ−ル・マガジン社】
本体 2000円
 
 本の紹介をしましょう。このアン投手のドキュメンタリーの中でちらっと映った野球本がありました。兄が野球の理論書を買ってきて弟に読ませたという下りで、中身がパラパラと映ったのです。
 手塚一志『ピッチングの正体』(ベースボールマガジン社)。
 確証は持てませんが、たぶん、この本です。98年に刊行され、同じ著者の『バッティングの正体』とともに、いまだに野球好きが集まるWeb空間でもよく論争のタネになっている、ピッチングの原理の解説書です。
 そうか、アン投手も読んでいたか。ちなみに阪神の田淵コーチお得意のうねり打法も、手塚理論ですね。田淵氏がダイエーの監督時代に、コンディショニング・コーチを務めていたのが手塚氏という関係のようです。

 内容はといえば、おもしろいぞ。「なるほど!」とか「ホントかよ、これ?」とか、初めて読む人はみな、多かれ少なかれ驚くんじゃないでしょうか。熱烈に支持する人や、ムキになって反発する人など、賛否両論うず巻くのがよくわかる。
 簡単に要約するのは無理ですが、さわりだけ書くと、体温計を振る動作がありますよね。手のひらを一瞬、顔のほうに向け、ピュッと腕を内向きにねじる。この体温計スイングこそがピッチングにおいても理にかなったモーションであるというのが基本です。
「ちょっと待て。体温計を振る動作は、ピッチングとは腕の向きというか振りが全然違うじゃん」と思った人も多いでしょう。ぼくも最初はそう思いました。でも、これが説得されちゃうんだなあ。

 とりあえず本書を読むと、プロの投手のピッチング・フォームや手のひらの向きがものすごく気になります。それで、オレも試しに投げてみたいんだけどどっかでピッチングできる場所はないかなあと、身体がウズウズしてきます。ボールすら持ってないのに。



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