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WEB本の雑誌これまでのログ倉庫目黒考二の中年授業


当連載がついに単行本に!
人生のワンシーンを呼び起こす
50の寄り道読書エッセイ集。
目黒考二著『新・中年授業』
発売中!

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目黒考二の中年授業

■第57回
ファイナル・カントリー

『ファイナル・カントリー』
ジェ−ムズ・クラムリ−著
【早川書房】
定価2,415
円(税込)  

 まず、モリー・マクブライドは次のように描写される。

「目の前にいるのは申し分のない美しい女だ。夜明け前の微光のようなダーク・ブルーの瞳が主役をつとめる、暖かみのある陽に焼けた顔にやわらかに波打ってこぼれかかる濃い色をした髪。大きなな口の隅についた小さな三日月型の傷跡と反った鼻の一番高いところにある小さなイボが顔の完璧な美しさを損ねている。だが完璧であるよりはこのほうがずっといい。ダーク・ブルーの縞柄のスーツとタートルネック風の淡いブルーのブラウスにくるまれた体はほっそりとしていて、やわらかく危険な曲線を描いている。小さな輪になった金のイアリングと不規則な型をした金の帯に埋めこまれている丸く黒い石で飾られた大きなペンダントのほかに宝石は身につけていない。その石はふっくらと形のいい乳房の谷間におさまっていた」

 弁護士と名乗るその若い女は、部屋に酒があるとミロ・ミロドラゴヴィッチを誘うのである。で、探偵でありながら酒場を経営しているミロは、ふらふらとその部屋を訪れるのだ。そうすると、「彼女はきちんとしたスーツを着たままで、飲みながら法律の話でも始めようかという雰囲気だったが、安っぽい贈り物のように氷入れをさしだしたとき、ブラウスとブラジャーを身につけていないことに気づいた。氷の中に両手をつっこんだはずみで、スーツの上着がめくれあがったのだ。彼女は首筋をもみ、何も言わずに冷たい手を上着の下にのばし、濃い色の乳首をした豊かな乳房の麓に押しあてた」ということになり、結局ベッドをともにしてしまう。お断りしておくと、ジェイムズ・クラムリー『ファイナル・カントリー』(小鷹信光訳/早川書房)の主人公ミロは六十歳である。この男には恋人のベティがいて、彼女とも濃厚なセックスをしているというのに、見知らぬ女に誘われるとこのようにふらふらと近づいてしまうのだから、まったく元気な爺様だ。

 このモリーとは一回では終わらない。もっとあとに次の場面が出てくるので、それもついでに引いておく。

「私は濡らした布で服から泥や牛の糞を洗い落としただけだったが、小屋の破れたドアからのぞいていると、モリーは衣類をぜんぶ脱ぎすてて池の中に入って行った。冷たい風に肌をさらし、水の中に内腿まで浸って立ったモリーは着ていたものを洗いはじめた。彼女の肌はあの灰色の明かりの中でしか見たことがなかった赤味を帯びた黒檀色に輝いた。私が池の端に素肌で立つと、近づいてくる私の匂いを嗅ぎとるかのように彼女は風に鼻を向けた。乳首は角氷のように固かったが、彼女の中はコンロの火の灰のようにやわらかなぬくもりがあった。私が足の指先を鷹の爪のようにして池の底のぬかるみにふんばって立つと、彼女の長い脚が二本とも私の腰にからみついた。彼女は片方の手を私の首に巻きつけ、もう一方の手で私の両肩をたたきながら頭をのけぞらせ、反った首筋の筋肉をふるわせてテキサスの原始の明かりの中で歯を光らせた」

 ね、もう休むことを知らないほど、タフな爺様なのである。しかししかし、本書のハイライトは次の場面。恋人のベティに友人の家に連れていかれる場面だ。その友人キャシーは鍼の名人で、体の痛いミロを直してくれるというので訪れるのだが、その治療は途中からヘンな方向にズレてゆき、そして、こんなことになってしまう。

「ただ前より強烈になったのは香の匂いだ。キャシーがゆっくりと鍼を抜く前に最後に私がおぼえていたのがその匂いだった。鍼は前と同じように私の体内にとどまりたがっているような感じがした。背中の具合がぐんと良くなり、キャシーにさっと体をひっくり返されたとき危うく痛めそうになった気まぐれな勃起まで出来していた。そんなことを思ったり考えたりするいとまもなく、キャシーのしっとりと暖かく濡れた口が私の上を一度、二度と這いまわった。あまりに素早かったのでさからうひまさえなかった。レオタードからすべりでた彼女は私にまたがり、まるで生きたけもののように私を貪った。口を開いてなにかを言おうとしたが、それがなにかを考えるより前に、ベティの内股のピンク色の影が私の顔面に飛来し、やわらかな赤い秘毛が口をおおった。私の舌はまるで独自の意志をもつかのように濡れた暗いくぼみに突進し、私は二人の女の望みのままに彼女たちの夢の中をさまよった」

 ええい、もっと引くぞ。虚心に読まれたい。

「おどろくほど清明な瞬間もあった。ベティの顔にまたがったままキャシーが、長くのびた乳首を私の口にさしこみ、「噛んで!」と叫んだかと思うと、まるで貨物列車のような勢いでまた絶頂に達したときもそうだった。彼女たちは以前もこんなセックスを交わしたことがあったのにちがいない。キャシーの口の下でベティが快楽の極みに達したときは、長いひんやりとした吐息が水晶のように澄んだ池を波立たせるかのようだった。私がキャシーのきつく締めつけてくるくぼみの中で果てたとき、ベティは射精の快感にもまさるやさしい長いキスで私の口をおおった」

 くどいようだが、ミロは60歳である。普通の60歳というのは、こんなに元気なんでしょうか。それとも、このミロが特別の爺様なのか。この小説の内容を全然紹介していないことにたったいま気がついたけれど、心が千々に乱れて、そんなことをしている余裕は全然ないのである!



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