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現役書店員が週替わりでおすすめ本のご紹介します。


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成田本店とわだ店/櫻井美玲
2006年6月1日
『ひとくちの甘能』
『ひとくちの甘能』

【角川書店】
酒井順子
1,260円(税込)
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 何年も前にある本に「男女の持つ“愛している”という感情は違う。男にとって愛しているというのは保護欲である」と書かれているのを読んで激しく同意した覚えがあります。つまり、守ってあげたいと思う気持ちが愛情だというのです。小さくて、丸くて、やわらかいものをいとおしいと思うのは、古今東西変わらないということなのでしょう。

 どうしてこんな話から始めたかというと、我が家にとって愛、それは甘味そのものだからです。とにもかくにも旦那様のお土産は甘い物。東京出張があれば銀座のピエールマルコリーニでエスカルゴを。青森にだって、んまいスイーツはたくさんあります。青森ならジークフリートの半熟チーズケーキ。弘前は青い花のスウィートポテト。八戸ならアルパジョンの生パイ。四捨五入すれば三十路の女に甘味は大敵なのですが、世の大抵の女性がそうであるように、その誘惑を断ち切れる程の強い意志は私にはないのです。

 喜ぶ顔が見たいというよりも、甘いモノさえ買っておけば間違いないだろう的な気持ちも見え隠れしますが、なんせ私にとって甘味は弁慶の泣き所。ケンカした翌日に仕事から帰ると、玄関先で大きな犬のぬいぐるみがドーナツの箱を抱えて待っていたりすると、私の中でめらめらと燃えていた青い炎はいつのまにか鎮火し、頭の中は食後のドーナツのことでいっぱいになってしまうのです。

 じわじわと、そして確実に下っ腹に備蓄されてゆく甘味達。そんな所に万一のための蓄えをしている女性におススメしたいのが本書。甘いモノを口に入れる瞬間、あれはまさに甘能と呼べる悦びなのですが、負け犬の遠吠え、私は美人といい、タイトルが上手い人です。春夏秋冬それぞれの季節に合った甘味達が、オシャレでありながらヨダレしたたるカラー写真とともに、自身の恋愛体験を交えながら女心をあますとこなく綴られた甘味エッセイです。透明のビニールにぎゅうぎゅうと詰めこまれているのではなく、こじゃれた箱に等間隔に整然と並べられている。そんなオトナの雰囲気を楽しめます。

 「少し行儀悪く、苺を指でつまんで食べてみたり、唇についたクリームを、舌で舐めとってみたり」「たっぷりと塗ったバターとたっぷりかけたシロップとが渾然となって、あの小さな凹みに溜まる。その眺めと、口の中に入れた時に、半溶けになったバターとシロップとが舌の上にトロリと流れてくるあの触感がたまらない」甘いモノを食べるのってなんだかイヤラシイ。という気もしますが、女性にとって甘味を食べる事は快感そのものなのですからイヤラシクもなりましょう。

 そして櫻井が膝を打ったのはこのくだり。「からいクレープの後に食べる、バターとシロップの風味がきいた甘いクレープは、実に美味しいものです。その美味しさはきっと、いきなり甘いクレープを食べるよりもずっと強いものであり、きっとあまから地獄に足を踏み入れた者しか感じることができないもの。それは“堕ちゆく快感”なのです」あまから地獄!! ポテチ・チョコ・ポテチ・チョコ。あの禁断の輪廻の輪を経験した事がある人はさぞかし多いことでしょう。あぁ、誰か閻魔様にこの新しい地獄の建設をこっそり耳打ちしてはくれないものでしょうか。甘味を食すというのは、昼間飲むビールに勝るとも劣らない罪深さがあるように思います。こんな地獄なら堕ちてもいいとさえ思ってしまう、抗えない魅力が甘味にはあるのです。

 1つの甘味につき4ページという読みやすさも魅力のひとつ。次から次へとページをめくる手が止まらない様はさながらあまから地獄のようです。下手な自己啓発本よりも、よっぽど女心がわかります。甘い物を小道具にしたい男性陣にもぜひ召し上がっていただきたい一冊。深夜のコンビニへ駈け込む事になっても責任は取れませんのであしからず。

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