13年の歳月をかけて書かれた作品は、やはり重い。読書のスピードは読む本によって全く違うものですが、この小説はことのほか丁寧に読んでしまいました。時間をかけて意識的にゆっくりと読みたい作品なのです。
本書『彼方なる歌に耳を澄ませよ』は、カナダのある一族の物語です。18世紀末にスコットランドからカナダ東端のケープ・ブレトン島に家族と共に渡ってきた男キャラム・ルーア。この男の子孫たちは「クロウン・キャラム・ルーア」とよばれ、世界のどこで出会ってもお互い「クロウン・キャラム・ルーア」だということは見ただけでわかり、知らないもの同士でもすぐ親しくなります。スコットランド、カナダの歴史を背景にして語られるのはクロウン・キャラム・ルーアのマグドナルド家。語り手はオンタリオ南部で歯科医をしているアレグザンダー・マグドナルド。彼には4人の兄と双子の妹がいましたが、まだ幼く「ギラ・ベク・ルーア(小さな赤毛の男の子)」とよばれていたころに、ある事故でひとりの兄と両親を亡くし、それからはおじいちゃんとおばあちゃんに育てられました。3人の兄はすでに大きくて彼らだけで生活し、彼と双子の妹とは全く違う人生を送ります。
アレグザンダーが誰かと話をしたりまたは一人で思い出したり、ぽつりぽつりと昔のことを回想しながら小説はすすみます。ある一族の壮大なドラマという雰囲気はなくて、わりと些細な思い出を思いつくままあげているという感じで、印象深い出来事は繰り返し語られていることもあり、それらをひとつひとつ読んでいくうちに、やがてすべて読み終えるころにいくつもの歴史の重なりと、円をえがく不思議なつながりがみえてきてなんともいえない感慨深い気持ちになります。
父方の祖父「おじいちゃん」と母方の祖父「おじいさん」の対称的な二人の強い友情、おばあちゃんのおじいちゃんに対する愛情、不幸な事故、情が深くてがんばりすぎる犬たち、自由に生きる三人の兄たち、すべての個々のエピソードが魅力的で味わい深い作品です。遠い昔から途切れることのない円を描く歴史、彼らもまたそういった大きな流れのなかにいるのです。
この物語は私とはまったく関係のない思い出なのに懐かしく感じるのは何故なのでしょう。私もまた大きな時の流れのなかにいるのでしょうか。私が耳を澄ませるべき歌はどこにあるのでしょう。
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