文庫の平台には出版社が送ってきたPOPや、僕が苦心して書いたPOPが立ててある。ふと見ると、3歳と5歳ぐらいの元気な姉妹が仲良くPOPを引き抜きながら歩いていた。「雑草か!」と心の中で叫びつつ僕が近づくと、それに気づいた父親が二人に「それは、取ったらダメ!」と注意をしてくれた。父親の手から謝罪の言葉とともにPOPを返してもらい、僕は再びPOPを文庫の平台に植える。
その様子を少し離れたところから見ている姉妹。せっかく沢山集めたのに、という表情だ。その顔からは、先ほどの楽しそうな笑顔が消えていて、僕は少し申し訳ない気持ちになった。そのとき、まるで僕はマンガのなかで『バカ姉弟』に翻弄される大人のようだった。
3歳の双子の姉弟が主人公の『バカ姉弟』は不思議な魅力を持ったマンガだ。両親が留守がちなため、町の人たちに暖かく見守られながら暮らす双子の姉弟。意気揚揚と町を徘徊し、自由奔放に駆け回る姉弟の小動物のような可愛さ。近所の住人たちは、そのあまりの愛らしさに誰もが世話を焼きたがり、その天衣無縫さに誰もが目を離せなってしまう。甘やかそうとすれば逃げ出して、知らない人には疑り深く、とても礼儀正しくて、親切な人には心を開き、けれど本能の赴くままに毎日が冒険なバカ姉弟。
ページを捲れば、時間を忘れて読みふけってしまう。読んでいると、なんだか懐かしい気持ちになるのは、子供と町の大人たちとの交流という、最近ではあまり見られない光景のためか、それとも自分の子供の頃を思いだしてしまうのか。心地よい余韻の残るマンガである。
そして、30分後。他の作業を終え、僕が再び文庫の平台に目をやると、そこには無残に握り潰されたPOPたちの姿があった。さっき植え直したばかりのPOPを、今度は引き抜いて歩く僕。このPOPはもう色褪せているし。これ、どうせ、POPがあっても売れてなかったし。POPを大幅に書き直すいい機会だ。でも、今度あの子たちを見かけたら「取ったらダメ!」ではなく「触ったらダメ!」とはっきり言わねばならん。
それにしても、よりによって『三国志』のPOPにあった北方謙三の顔を握り潰すとは、恐れを知らない子供たちだ。
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