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紀伊國屋書店新宿本店/平野千恵子さん

2007年9月13日

『サクリファイス』
『サクリファイス』

【 新潮社 】
近藤 史恵
1,575円(税込)
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今月はこれを紹介したいと思っていました。でも同時にこの本の面白さを伝えるのはとても難しいのをよくわかっているので不安でもあります。
「ものすごく面白いから読んでください!! 」
それだけで本当は十分、数ページ読んでいただければすぐわかります、と言い切れるのですが。

難しい理由その1。 ミステリーの要素を含んでいるのでネタバレにならないようにしなくてはならない。
理由その2。 とあるスポーツがこの物語の核になっているのですが、それが日本ではまだまだメジャーでないため知らない人はイメージしにくい。
「サクリファイス」は自転車ロードレースのプロチームを舞台とした青春ミステリーなのです。

主人公白石誓(チカ)はオリンピックも夢ではない陸上選手だったが、“勝つために走る”ことに疲れやめてしまう。偶然テレビで、勝つために走る“エース”と、それを助けるために存在する(風除けになったり、わざと跳びだしてレースを撹乱したり) “アシスト”でチームを作るロードレースを知った彼は大学で自転車部に入り、卒業後「チーム・オッジ」というプロチームでアシストとして走り始めるのだが・・・。

まず初めのページ、誰かが死んでいるのが目に飛び込んできます。それが誰なのかはわかりません。そこから過去に溯ってチカの視点で語られ始めるのですが、私たちは常にどこかに不穏な気持ちを抱いたまま読み進むことになります。
正直に言うと、最初に結末を見せられて、この物語はどこに着地するのだろうとあまりにドキドキしながらだったのでいろんなものを見落としてしまっていました。再読した時に初読では実感できなかった登場人物たちの言葉や行動、そしてタイトルに込められた意味が雷のように私の中に落ちてきてビリビリきました。謎解きの部分も含めて何度も繰り返し読み返すたびに沢山のものが伝わってくる小説です。

チカの一人称ゆえに、他の人物たちの思惑や本当にその答えであっていたのかは永遠にわからない。でも大切なのは彼らが何かを受け取ったということ。
勝つことの責任の重さ、自分を捨てて他人を勝たせることへの葛藤、才能の輝きと残酷さ、挫折。陽射しの強さ、落ちる影の濃さ、身体から放射される熱、息遣い。
勝利は一人のものではないと知っているから走れる。

矛盾するかもしれませんが、ルールなんて知らなくても大丈夫。読みながらその面白さを教えてもらえます。目の前を彼らが走り抜けていくかのような臨場感、すごいです。
静かな興奮と感動と。そして何より強い畏怖。面白くてとても怖い物語です。

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