今年の文春文庫は、昨年以上に海外ミステリが充実していて、ワタクシうれしい限りである。ふたつの傑作――ドナルド・E・ウェストレイク『聖なる怪物』とジェイムズ・カルロス・ブレイク『無頼の掟』を皮切りに、以降のラインナップも高水準を保っていて、頼もしいばかりだが、四月の新刊――ジャック・カーリイ『百番目の男』も、新人の勢いあるデビュー作で、その水準の維持に成功している。
≪精神病理・社会病理捜査班≫に所属する刑事が主人公、連続斬首事件、死体に刻まれた文字……。材料だけ見れば、トマス・ハリスの登場以来、濫造されては消えていった名ばかりのサイコ・サスペンスと同じじゃないかと誰しも思うに違いない。さらに、主人公が隠している、ある秘密に至っては、「また、それかよ!」と声を荒げる向きもあるかと思う。だが、一見して欠点と思われそうな趣向の用い方が、必ずしもマイナスに作用しないのが物語のおもしろさであり、新人作家の熱のある作品を読む楽しさでもある。すぐに突っ走る若き刑事とユーモアを交えながらそれを抑える先輩刑事のコンビ――このメインキャラが生む空気とテンポは、作品を残忍さと重苦しさだけのサイコ・サスペンスもどきに堕落することを防いでいるし、読者に挑戦するがごとく提示されるふたつの謎――なぜ死体の首が斬られるのか? 犯人が死体に施したある事の目的とは?――の真相は、本格ミステリファンも驚きの声をあげるだろう(これは思いつかなかった)。お決まりの趣向が、これら長所と合わさることで違う光り方をし、抜群の牽引力でラストまで引っ張ってくれる心地よさは本書の大きな魅力である。
アメリカでは近々、同じ主人公のシリーズ第二弾が刊行されるらしい。気になるあの「彼」が、今度はどのように関わってくるのか、いまからとても楽しみである。だって、あんな終わり方をされたらねえ(笑)。 |