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有隣堂ルミネ横浜店/加藤 泉
2005年5月26日
いつかパラソルの下で
『いつかパラソルの下で』

【 角川書店 】
森絵都
1,470円(税込)

 平安寿子の「グッドラックららばい」で現代家族小説の洗礼を受けた私には、昨今氾濫しているハートフル家族小説が物足りなく感じられてならない。
それを、信頼できる筋の人間が褒めちぎっているのを聞いたりすると、アレレ私の方が変なのか?と大いに悩んでしまう。
私の心の中に潜むツトムという名の小悪魔も「感性鈍っちゃったんじゃないの〜」と囁きかけてくる。
いいさ、あたしはあたしの風邪を引く(c岡崎武志)と開き直りかけていた矢先に現れた救世主が、この「いつかパラソルの下で」だ。
待っていたのだ、こういう家族小説を!

 厳格な父との不和というテーマは一見重たく感じるが、読者に陰鬱な印象を与えずユーモアさえ感じさせる(特にイカイカ祭りのあたり)のは、著者の温かい眼差しに負うところが大きい。
前作「永遠の出口」を読んでも思ったことだが、森絵都は、人が成長していく過程で越えなければならない高い山を、読者と同じ地点から仰ぎ見る共感の視点と、その人間達を天空から俯瞰する余裕の視点の両方を併せ持っている作家だ。

 この本には、生きていく上でこれは知っておいた方がいいですよ、ということのいくつかが、さりげなく書かれている。
とりわけ、両親のことを「父」「母」という役割を離れた一個の人間として見られるようになった時の主人公の成長ぶりが実に眩しくて、通過儀礼の最たるものを見せられた気がした。

 はて、私が両親を一人の人間として見られるようになったのは、何時からだったか?

母に関しては、学生時代に何かの間違いで花嫁姿の母の写真を見た時のことだと思われる。
希望と不安に頬を上気させた写真の中の若い娘は、長男を生み次男を生みそして私を生み育てた結果こうなってしまったのだ、と変な罪悪感に苛まれたが、思えばあの時から母のことを、親でもあり同じ女性の一人でもあると見なし始めたのだ。
一方、父に対しては、いまだに「父親の顔」以外の彼の顔を積極的に見ようとは思わない。
それは、私が父に「お父さん」という役割をまだ被せたがっているからだろう。
誰にでも必ずある弱さや狡さを、父の中に見出したくないのだ。

 私にも海辺のパラソルの下の語らいが必要かもしれない。
この本の清々しいラストシーンを読んで、私はそう痛感したのだった。

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[ いつかパラソルの下で ]
 

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