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8月31日(日)

『源平合戦の虚像を剥ぐ―治承・寿永内乱史研究 (講談社選書メチエ)』
川合 康
講談社
1,785円(税込)
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 妻を家に置いて、子供たちを温水プールへ連れて行く。
 わが家の子供たちは水が苦手で、ちっとも泳ぎが上達しない。だいたい妻は今でもほとんど泳げないといってもいいし、私も今でこそそこそこ泳げるものの、子供の頃は水泳が苦手だった。小学生のとき、見かねた父に、足のたたないプールの真ん中に放り込まれ無理やり泳がせられたが、結局泳げず溺れそうになって、通りがかりのおっさんに助けられたのである。おかげで大変な苦手意識と劣等感を持っていたのだが、後で父もたいして泳げなかったことを知り、ふざけんな、と思ったのだった。自分ができないことを、息子にスパルタするか。
 だから自分の子供たちには恐怖心を煽らないよう教えてやろうと思っているのだけれど、結局私の水泳が格段に進歩したのは、学生のときに、海の生きものに出会ってからで、ヘンな生きものが見たいばっかりに、どかどか海を潜りまわって、気がつくと苦手意識が消え去っていたのだった。したがって、子供にはプールでごちゃごちゃ教えるより、自分が泳いでいることを忘れるぐらい、水中の生きものに親しませることではないかと、心のどこかで思っている。プールの底にも、せめて海老・蟹・ヒトデなんかがいると、子供も上達が早いと思うのだが、そんなプールはないだろうな。
 ファミレスで昼めし食って、図書館で絵本を借りて帰る。
 夜、川合康『源平合戦の虚像を剥ぐ』(講談社選書メチエ)を読む。

9月1日(月)

『中世人の経済感覚 (NHKブックス)』
本郷 恵子
NHK出版
1,124円(税込)
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 子供たちが幼稚園へ出かけている間に、妻の運転練習に付き合う。このまま親ふたりが死んでしまったら、子供たちはどうやって生きていくのだろうと不憫になる。
 保立道久『義経の登場』、本郷恵子『中世人の経済感覚』(ともにNHKブックス)を読む。『中世人の経済感覚』のなかに「徒然草」からの引用があり、第二一七段「ある大福長者」の語った話として、〈人はなによりもまず、ひたすらに金を儲けるべきである。貧しくては生きている甲斐がない。富んだ者だけが人としての扱いをうけるのだ。金を儲けようとすれば、とにかく金儲けの心がけを修行しなければいけない〉としたあとに、大福長者がその心がけのひとつに〈人間常住の意識をしっかりもって、仮にも無常感にとらわれてはならない〉という点を挙げているのが、可笑しかった。貧乏の原因は、無常感だったのだ。まったく、無常感にとらわれていたから、今こうして貧乏になってしまったのであることよ。
 
 本日0時の早明浦ダムの利水貯水量0.0%。
 ない。どうするんだ、早明浦ダム。

9月2日(火)

 今日も朝イチで、妻の運転練習。手に汗握る。
 それはそれは恐ろしいけれども、3回目で私も少し余裕がでてきた。公園の駐車場で、木漏れ陽のなか、車庫入れの練習をしていると、これまでの生活に妻の運転という要素はなかったのが、こうして妻がチャレンジすることで、多少でも生活に新しいパターンが付け加わるのは、ささやかだけれども心機一転だと思い、子供ら同様これから二学期が始まるような新しい気分がほんの少しだけした。
 心機一転という意味では、いつも子供と妻が寝ている和室の畳も、新しく張り替えた。少々出費になるが、今までのは、い草が剥げて下地のコルクみたいなものが見えていたうえに、そうでないところもささくれて床全体がトゲトゲの凶器みたいになっていたので、ついに根負けして替えたのである。まだまだ網戸や襖には穴が開いているし、押入れの棚も落ちているし、廊下の戸板は下のほうがめくれていたりで、廃屋風味はぬぐえないものの、これで少しは快適な家になるだろう。新しいい草の香りが高級旅館にでも来たようで、しばし嗅ぐ。
 ところでネットで確認すると、早明浦ダムの貯水率が、−0.4%になっている。
 なんだ、それ。まだあるんじゃないか。つまり、緊急対応策として発電用に取っておいた水を放流しているのらしい。ますますうちの家計に似てきた。他人事とは思えん。

9月3日(水)

 今日も妻の運転練習に付き合ってから、仕事場へ。
 とある会報誌で季節連載しているはめ絵の講評と、模範解答。
 昼間は暑かったが、夜はこの頃だいぶ涼しくなった。

9月4日(木)

 妻の運転練習が朝の日課になってきた。
 その後、明日また高野さんと川下りへ行くので、車のガソリンを満タンにし、さらに街へ出て、銀行で金をおろしたり、本屋で川の資料を立ち読みしたりする。駅前に高層ビルが建設中で、鉄骨の横を工事関係者を乗せたゴンドラが上下していた。保安上、そのゴンドラが動く際には、メロディが流れるようだ。ヘルメットを被り作業服を着た、がたいのいいおっさんたちが、「大きな栗の木の下で」の伴奏付きで高いところへ登っていく堂々とした後姿が、本日の見どころだったように思う。
 仕事場に戻って、書評原稿を書く。

9月5日(金)

 高野さんが、カヌーに乗りに行きましょう、と言うので、那珂川へ行く。
 私は二十年ぐらい前にカヌー(ファルトボート)を持っていたのだが、乗り方も知らないまま3回ぐらい川下りをして死にそうになり、あまりに危険なので、人にあげてしまった過去がある。昨今はやる人も多くなってスクールなども充実しているけれど、当時はファルトボートなんてものはほとんど誰も知らず、インターネットもないし、きちんと学ぶことができなかったのである。そんなわけで約二十年ぶりということになるし、細かいこともさっぱり忘れているが、面白そうなので出かけた。本の雑誌のニック・ステファノスさんがファルトボートを貸してくれた。
 二十年前は黒羽というところから下ったが、今回は少し下流の下野大橋のたもとをスタート地点にして、ファルトボートを組み立てた。カヌーは2艇しかなく、ニック・ステファノスさんは今回はサポートに徹してくれるという。ゴール地点まで車で移動して、カレーでも作って待っていてくれるそうで大変ありがたい。
 まずは私から、かなり流速のある流れに漕ぎ出すと、すぐさま流れにもっていかれて、カヌーは快調に滑り出した。高野さんもすぐについてくる。
 まあ一応は私が那珂川経験者ということで、ルートを選ぶ役目を担って先に行ったわけだが、二十年前のルートなど覚えているはずもない。適当に下る。それでも天気もいいし、あたりには誰もいないし、技術的に不安なところもとくになく、大変気持ちよくなって、鼻唄まじりで下っていった。そうして1時間ぐらい下っただろうか、ふり返ると高野さんがいなかった。
 いったん岸に上陸し、後方を眺めやると、大きな橋の下の葦の茂みで何か未確認生物のようなものが動いている。よく見えないが、高野さんに似ていた。高野さんに似た謎の生物は、カヌーを逆さにして中の水を排出していた。まさか早稲田探検部出身で、世界をまたにかける冒険家の高野秀行が、こんな初心者向けの川で沈するわけがないので、あれは高野さんに似てはいても、別の生物だろう。
 それでまたしばらくいくと、いつしか高野さんも戻り、大自然のなかをふたりで下っていった。ところが、大きな波が立っているところをガンガン漕いでクリアしてから、なんとなくふり返ると、高野さんがまたいなくなっていた。なぜか逆さになったカヌーの底だけがプカプカ浮いている。那珂川で転覆する確率は、初心者でも5%程度とニック・ステファノスさんも言っていたので、よもや早稲田探検部出身で、世界をまたにかける冒険家の高野秀行が転覆したはずはない。きっとそれは高野さんのようで高野さんではなく、未確認生物だったのだろう。本物の高野さんはきっと別にいるのだ。
 そうして、3時間ほども下ったろうか、後半はどんどん流れもゆるくなってきて、高野さんに似た生物はどこかへ行ってしまい、私はひとり青い空を見上げながら、のんびりと蝉の声を聴いていた。
  
 ところで、今度ニック・ステファノスさんは初めての本を出す。それはそれはおめでたい話かと思いきや、そこには、吾はいかにして妻をだしぬき熱愛する浦和レッズの試合観戦に極秘裏に出かけたか、というような内容が赤裸々に書かれているそうで、妻に読まれるのが恐ろしい、と本人は今から震えているのだった。なんでぇそんなこと、と思えば、いやあ、それは恐ろしい、と高野さんも一緒に震えている。わけわからん。
 今回こないだのハイドロスピードの写真ができてきたので、高野さんに渡したところ、それが私の友人(女性ふたり)と私と高野さんが和気あいあいと、浮き輪につかまって川に浮かんでいる写真で、高野さんは見るなり背筋が冷たくなったと言う。男女ふたりずつの写真が、まるでお忍びナンパ旅行のように見えるというのだ。これは妻に見せられない、と高野さんは震えだし、私が奥さんに説明しますよ、とフォロー態勢に入ったにもかかわらず、いや、これは黙って捨てたほうがいい、と頭を抱えていた。
 まったくふたりとも何をビビっておるのか。そうやってコソコソするから、かえって痛くもない肚を探られるのだ。堂々といかんかい、堂々と。
 しかし一度夫婦関係がそうなってしまったら、たとえば今後この2人が何かのはずみでノーベル賞をとるようなことがあったとしても、その関係は一生挽回できないであろう。夫婦の関係は、上司と部下、いや、それどころか、株主と社員のようなもので、何があっても永遠に立場は変わらないのだ。
 おふたりの今後の冥福を…じゃなかった、幸運を祈りたい。

9月6日(土)

 家族で、市営の温水プールへ。
 200m泳いだだけで、へとへとになった。海でシュノーケリングしているときは、どれだけ泳いでもちっとも疲れないのに、マスクをはずすと途端に疲れるのは、下手くそな息継ぎで体力を消耗しているのにちがいない。一度本格的に誰かに教わりたいが、今回はそんなことより久々に使ってみたゴーグルに難儀した。どういうわけか、ゴーグルに目が収まりきらん。私は比較的目が大きいほうだが、ゴーグルに入りきらないとは思わなかった。目を細めても、ゴーグルの縁が眼球の上下にえぐれこんできて、その圧力で目玉が飛び出しそうなのである。あんまり痛いので、次は顔の半分が収まる水中メガネで泳ごうと思うが、目立ちそうな気がする。
 
 早明浦ダムの貯水率は、ついに計測不能の**になってしまった。

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