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WEB本の雑誌>【本屋さんのはなし】U−50(アンダーフィフティー)

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狭小書店探訪 『U−50』
 
 更新:2006年3月3日


往来堂書店
〒167-0042
文京区千駄木2-47-11
TEL&FAX 03-5685-0807

注文専用フリーダイヤル 0120-180-350
地下鉄千代田線・千駄木駅下車
営業時間:10:00〜22:00 (年中無休)

>>往来堂書店ホームページ

 
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大きな書店の間で、ひっそりと、いやしっかりと営まれている小さな本屋さん(50坪以下)がある。
そんな本屋さんを永江朗さんと訪問し、小さな本屋さんに集まる人、本について話を伺ってきた。
あなたの駅にある本屋さんも、いつか訪れるかも…。

第3回 往来堂書店
往来堂書店 写真


 <街の本屋>という言葉がはやるきっかけとなったのは、奈良敏行と田中淳一郎の共著、『街の本屋はねむらない』(アルメディア、97年)だろう。奈良さんは鳥取市・定有堂書店の主人で、田中さんは東京都目黒区・恭文堂の若旦那。で、<街の本屋>のイメージを一気に広めたのが往来堂だと思う。いまや往来堂は「個性的な<街の本屋>」の代名詞的存在。メディアにもよく登場するし、見学に訪れる業界関係者も多い。

 場所は地下鉄千代田線の千駄木駅と根津駅の中間。森まゆみさんのミニコミ、『谷根千』で知られる、幕末から明治の匂いが残っているエリアだ。上野の山や寛永寺、谷中墓地、東大などは散歩の範囲で、自転車を使えば神田神保町だってすぐ行ける。いい街だ。

 往来堂の外見はふつうの本屋。入口前には雑誌があり、洋食屋みたいな黒板に新刊書のタイトルなどが白墨で書かれている。1フロアの店内は「L」の字を逆さにしたような形で、細長くて奥がちょっと広い。20坪。

 

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どうしてこの本がここに? 棚を読む楽しさも味わえる

 入っていきなりの棚がしぶい。左手は岩波文庫が並んでいるし、右手は人文書や文芸書の書籍。まん中が新刊台とイベント台だけれども、取次発表のベストセラーランキング上位の本や、新聞に半五段広告が出るようなメジャーな本はあまりない。どちらかというと地味な本、新聞に広告が出てもサンヤツが精いっぱいというような本が多い。「へえ、こんな本が出ていたんだ」と発見がある。

 雑誌はまん中へんから奥にあって、実用・児童書・コミックも奥のほうにある。レジもまん中へん。一般的な街の本屋のセオリーからすると、入口近くに雑誌を置いて、奥に進むに従って重厚になり、レジカウンターは入口脇にしつらえて店内を見渡すようにするのだけど、往来堂ではすべてが逆だ。雑誌(だけ)を買いに来た客にも店内をぐるっとひとまわりしてもらうように、という作戦である。ひとまわりといってもそう広くはない。

 店長の笈入建志さんは1970年生まれ。東京・青山の根津美術館の近くで育った都会っ子である。早稲田大学を卒業して東京旭屋書店に入社。池袋店に6年間勤務して、往来堂に転職した。2000年のことである。

往来堂書店店長 笈入建志さん 写真
出版社の営業マンや編集者とともに“売り方”を考えていると話す
写真)往来堂書店店長 笈入建志さん

「たいへんでしょう、とか、たいへんだよって、みんなに言われましたね」と笈入さんは振り返って苦笑する。

 この<たいへん>の中身はいろいろある。ひとつは、大型書店から街の本屋に移ったこと。大型店と小規模店とでは、仕入れの容易さが違う。大型店には潤沢に入るベストセラーが、街の本屋にはなかなか入ってこない。また、経営責任をほとんど問われない大型店の係長から独立店舗の店長にというのも大きな違いだ。そして、いちばんの<たいへん>は、笈入さんの前任者が安藤哲也さんだったことだと思う。

 安藤さんは大塚駅前で14坪の田村書店を成功させた後、1996年に往来堂をつくった。オーナー店長ではなく雇われ店長ではあったが、そのユニークな店づくりはたちまち業界の話題になった。たとえば<文脈棚>。1冊の本の隣にジャンルを超えたまったく異種の本を関連づけて並べる。たとえば離婚に関する法律相談の隣に、就職本、起業本を置く。離婚を決意した女性がまず必要とするのは、経済的自立だろう、という「文脈」である。安藤さんは『本屋はサイコー!』(新潮社OH!文庫)などを書いたのち田村書店・往来堂を退社、bk1や東京糸井重里事務所、NTTDoCoMoを経て、現在は楽天に所属。

「あんまりそういうことは気にしない性格なので何とかやれたのかもしれない」と笈入さんは笑う。
「安藤さんの考えかたは、旭屋にいるときから共感してするところが多かった。その共感ってなんだったんだろうって考えたんですけど。大型書店での仕事って、ともすればゼロ・サム・ゲームになっちゃうんですよ。商圏の奪い合いとか。僕がいた池袋なら、旭屋があり、リブロがあり、そこにジュンク堂が進出して。それは全国で行なわれていることだけど、どちらかが倒れるまでの消耗戦というのはどうも……。でも、それぞれがそれぞれのやりかたでやっていける本屋の世界もあるんだっていうことを安藤さんに見せられた。だから今の往来堂も、たとえ近くに別の書店ができても、それぞれが成り立つような店にしていきたい。中高生が漫画をいち早く買っていくような繁盛の仕方もあれば、年配の人が落ち着いて読める本のある店もある。棲み分けのやりかたは無限にあるのに、旭屋にいてはできない。そう僕は思ったんですよ」

 いってしまえばドロップアウト、と笈入さんは言うけれども、じつは<個性派>と呼ばれる書店はみなドロップアウトからはじまっている。ヴィレッジヴァンガードはベストセラーを追いかけないというドロップアウトからはじまったし、青山ブックセンターも競合店が見向きもしない海外文学や人文書を売るというドロップアウトからその個性を磨いていった。

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お客さんとのコミュニケーションツールの初めの一歩

 安藤さんから笈入さんに代わっても、往来堂の棚は急激には変わらなかった。時間をかけて徐々に少しずつ変わっていった。<文脈棚>はあいかわらず基本だが、もちろんテーマは常に変わっていく。アルバイトがつくる<丁稚棚>なんていうのもある。

 私個人の感想としては、笈入さんになって棚がより洗練されたと思う。安藤時代の往来堂はグッとくるときは何冊も買う本があったけど、ない時は1冊もなかった。笈入さんになってからは、どんなときでも必ず欲しい本が見つかる。それは仕入れの微妙なさじ加減なのだけど、客の気持ちとしてはずいぶん違う。客を選べない大型店での経験がここに生きていると思う。


 

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布団にくるまる可愛い猫のイラスト入り手製帯。何気ない努力が随所に光る

画像をクリックすると大きくなります。

↑上の画像をクリックすると大きくなります。

「平日はお年寄りが多くて、週末は近所に住んでいるサラリーマンが多い。平日は雑誌がよく売れて、週末は書籍ですね。文庫も週末が多いかな。谷根千を歩く観光客は、あんまり関係ない。あんまり、ですけど。というのも森まゆみさんの文庫は1週間に2冊ぐらい必ず売れていきます。地元の人はすでに買っているはずだから、たぶん観光客需要だと思うんですよね」

 岩波文庫やみすず書房の本を並べておくと、「おっ、こんなところに!」と驚いて買っていく人も多いという。街の本屋はそういう本を置いていないと甘く見ているのである。言い換えると、街に溶け込みつつ「こんな本が、こんなところに!」という驚きを仕掛けつづけるのが笈入さんの仕事でもある。

 最近は街とのコラボにも熱心だ。たとえば根津の古書店、オヨヨ書林と、千駄木の古書ほうろうを結ぶ不忍通りを「不忍ブックストリート」と名づけてエリアマップを作ったり、古本を一箱ずつ持ちよって通りの軒下を借りて売る「一箱古本市」に参加したり。「不忍ブックストリートが選んだ50冊」や「往来堂のスタッフが選んだ年末年始のおすすめ本」というパンフレットも作っている。
「お客さんと本の話ができる店にしたいんですよ。僕ら、本を作ったり売ったりするのを生業にしているのに、本の中身について話すことが少ないという反省もあって。とはいえ読書は個人のものだから話すのは難しい。まずは仕組みを作っていきたい」と笈入さんは話す。



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インタビュアー
永江朗さん 写真
永江朗(ながえ・あきら)

1958年、北海道生まれ。洋書店に7年間勤務後、フリーのライター兼編集者に。93年ごろより専業ライター。近著に『<不良>のための文章術』(NHKブックス)、『狭くて小さいたのしい家』(共著、原書房)。
 
永江朗さんの著書
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