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WEB本の雑誌>【本屋さんのはなし】U−50(アンダーフィフティー)

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狭小書店探訪 『U−50』
 
 更新:2006年6月14日


松田書店
〒142-0064
品川区旗の台3-12-3 J-BOX1階
TEL.03-5749-1218

東急大井町線、池上線・旗の台駅 徒歩1分
営業時間 10:00〜22:30(日曜は22時まで)
年中無休

 
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大きな書店の間で、ひっそりと、いやしっかりと営まれている小さな本屋さん(50坪以下)がある。
そんな本屋さんを永江朗さんと訪問し、小さな本屋さんに集まる人、本について話を伺ってきた。
あなたの駅にある本屋さんも、いつか訪れるかも…。

第4回 松田書店
松田書店 写真


 東急の大井町線と池上線が交わる旗の台、その駅前に松田書店がオープンしたのは3年前(2003年)の春だった。もとはコンビニだった店舗である。書店跡がコンビニになる例はたくさんあるけれども、その逆は初めて聞いた。

「このビルの家主がコンビニをやっていて、もう辞めたい、と。それで山下書店に出店の打診がありまして、山下の社長から、『松田、独立したいんだったら、この物件なんか面白いんじゃないか?』と言われたのがきっかけです」

 こう話す松田正次さんは、山下書店に約20年間勤めていた。大型店やチェーン店に勤めていた人が独立する例はないわけじゃないが(でも珍しい)、暖簾分けでもないのに社長が物件を紹介してくれるなんて! 考えてみると、いまどき街の本屋を始めようということ自体が、かなり珍しいのだけれども。そう言うと松田さんは「まあ、食べていければいいかと思って」と苦笑する。

  実際、この旗の台だってなかなか厳しい商環境なのだ。線路をはさんで反対側にあった大平堂は、松田書店が開店する前に閉店してしまったし、隣の荏原町(といっても歩いて5、6分)にあった文華堂アイムもつい最近閉店してしまった。

「あまり競合店のことは考えなかった。そもそも、話があってから決断するまで1週間しかなかったし。ただ、歩くとけっこう古本屋があって、棚を見ると本が好きな人が住んでいるんだなと分かる。食っていければと言ったけど、基盤さえしっかり根づけば、あとは頑張ったぶん返ってくればいいと思った」と松田さんは言う。

 旗の台は松田さんが生まれた街でもある。もっとも、1歳にならないうちに両親は下丸子に越してしまったけれども。ただ、下丸子も旗の台も同じく城南エリアで町工場が点在する街で、その意味では土地鑑はあった。

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「とても40坪とは思えない広く見える店内。しかもその間にも“松田理論”の仕掛けがいっぱいいだ」

 店舗は間口が狭くて奥に長いいわゆるウナギの寝床型。40坪と聞くとちょっと驚く。数字以上に広く見えるのだ。この「見える」というところが松田書店のポイント。視覚的効果を最大限に使った書店なのである。

 たとえば店舗は道路から少し高くなっている。道路から店内を見た時の感じと、一段上がって店内に一歩足を踏み入れたときの印象が違う。視点が変わるからだ。そして奥まで売場が広がっているのを見て、意外と広いなと感じる。

「本棚の高さにも仕掛けがあるんですよ。在庫量を考えると、入口付近の棚はもう1段欲しいところ。でも、それをやっちゃうとお客さんが入ってこなくなる。圧迫感があるから。壁になっちゃうんですね」

 あえて棚を低くする。しかも、この棚の配置が微妙にずれている。松田さんがいい加減なのではなくて、これも意図的におこなわれている。棚がただまっすぐに並んでいたら、客はそのまま通りすぎてしまう。見た目も間延びしてしまう。微妙にずれていることで客は足を止め、棚の本を注視するのだという。

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「常識にとらわれない平台の作り方。かつては新刊を売らない本屋を目指したこともあったとか」

 お邪魔したのは5月18日。つまり、『ハリ・ポタ』新刊発売日の翌日である。当然、松田書店でもメインの平台に積んでいるわけだが、その場所どりに松田さん独特の工夫がある。平台には平台の定石がある。私が先輩から習ったのは、客から見て最前列左端が一等地であることと、平積みの高さは均一にしてはいけないということ。ただし一等地だからといってそこに置けばなんでも売れると安易に考えてはいけない。一等地には一等地にふさわしい本を置かなければならない、云々。ところが松田書店の『ハリ・ポタ』は最前列にはないのである。

「うちはわざと引っ込めて置いてます。最前列に『ハリ・ポタ』を置いちゃうと、その後ろのスペースは死んじゃうんですよ。ところが『ハリ・ポタ』を後ろに置けば、前の列も生きてくる。『ハリ・ポタ』は黙っていても売れる」

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「なぜかお店の真ん中に回転ラックが…。イチローの話を聞いて人が意外と見ていないことに気づいたそうだ」

 松田書店の40坪の空間は、この種の「松田理論」で埋め尽くされている。残念ながらそれがどういうものなのか、ここで具体的に明らかにすることは松田さんに口止めされている。松田さんの説明を聞いた本の雑誌社のS江と私は、ひたすら「へえー」「へえー」と感心するばかりであった(まるでアホである)。それがどんなものなのかは、実際に松田書店に行って見ていただきたいが、ひとつだけヒントを言うと、「ずらし」と「気づき」である。日常の見慣れた風景のなかに、ひとつだけずれた部分があると、人はそこを注視する。音楽で言うとシンコペーションだ、弱拍と強拍のリズムが意図的に狂わされると、人は違和感をいだきそれが快感に転じる。あるいはゲシュタルト心理学での地と図の関係。地から図を浮かび上がらせるための仕掛けが店内のほうぼうにある。

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「お客さんのちょっとした動きにヒントがいっぱい詰まっている、と話す松田店長。 そんな話をしているときもお客さんの動きを見つめていた」

「人は意外と見ているようで見えていない」と松田さんは言う。視界に入っているのに気づかない。目の前にその本があるのに「××という本はありますか?」と客に訊かれることは書店員なら毎日のように経験している。見えていないものをどうやって見せるか。いま書店界で大流行のPOPも、地から図を浮かび上がらせる仕掛けといえる。「この本は面白いですよ!」と書店が客に訴えるのだから。たしかにPOPは有効な手段だが、欠点もある。たとえばPOPに惹かれて読んだけれども、どうもイマイチだったという場合。客のなかで、その書店のPOPに対する信頼性は下がってしまうだろう。また、POPに喚起されたという意味で、客にとっては読書がいささか消極的なものになってしまう。

 ところが「松田理論」の場合、客は自分で「気づき」、その本を「発見」し、自発的に選んだのだと信じている。仮にその本がイマイチだった場合も、自分で選んだんだからしょうがないと思うわけで、松田書店への信頼がゆらぐことはない。おそるべし、「松田理論」! 私は以前、武豊から聞いた言葉を思い出した。競走馬はたずなを引いたぐらいでは素直に動かない。だから「右に行け」と命じるのではなく、馬自身が「右に行ったらいいことがありそうだな」と思うようにするのだという。松田正次は書店界の武豊か!

 松田さんは山下書店での20年間で、町田と行徳以外の店舗はほとんど経験したそうだ(この2店舗に勤務しなかったのは、通勤がめんどうだったかららしい)。広い店も狭い店も、東京ドームみたいな特殊な立地の店も、新宿西口のビジネスマンばかりの店も経験した。その上で「本屋は立地条件ですべてが違う。同じ街、同じ規模でも、路地一本隔てただけで売れるジャンルがまるで変わることもある」と話す。でも「松田理論」は、どんな書店でも使える魔法の技術だ。どうです、松田書店に行ってみたくなったでしょう?



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インタビュアー
永江朗さん 写真
永江朗(ながえ・あきら)

1958年、北海道生まれ。洋書店に7年間勤務後、フリーのライター兼編集者に。93年ごろより専業ライター。近著に『<不良>のための文章術』(NHKブックス)、『狭くて小さいたのしい家』(共著、原書房)。
 
永江朗さんの著書
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